ただ君の征く道を
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私の言葉に緑谷くんは視線を泳がせる。
もしかしなくても、緑谷くんは私に傘を差しだせばそれをすぐに受け取って、帰ってくれると思っていたのだろう。
私にとっては願ってもない提案。
受け入れないはずがないのだから。
でもそれだけでは済まなかった。
緑谷くんの予想に反して、私は彼に問いかけてしまった。
答えを用意していなかった質問をしてしまった。
困らせるつもりなんてなかった。
でも、確認せずにはいられなかったのだ。
緑谷くんは必死に言葉を探したようだったけれど、私を誤魔化すいい案を思いつかなかったのか、観念したようにぽりぽりと頬を掻きながら歯切れ悪く言葉を紡いだ。
「これくらいの雨なら走って帰れば──」
ああ、それじゃあなんの解決にもなっていないじゃないか。
この雨に濡れるのが、私から緑谷くんに変わっただけだ。
このまま私が緑谷くんの傘を借りて濡れずに家にたどり着けたとしても、彼を雨の中走って帰らせた罪悪感で圧し潰されてしまう。
全身ずぶ濡れで帰るよりも、そっちの方がよほど精神的にダメージを受けそうだ。
よし、決めた。
「……緑谷くん、一緒に帰ろ?相合傘になっちゃうけど」
「相合傘!?」
意を決した私は小さく溜めを作ってから一気に吐き出した。
私の言葉に緑谷くんは目を見開いて、大きく後ずさった。
弾き出されるようにして紡がれた声は見事にひっくり返っていて。
緑谷くんの動揺具合がありありと伝わってきた。
驚くだろうと思った。
予想通りといえば予想通り。
いささか大袈裟すぎるのではないか、とも思わずにいられないけれど、お茶子ちゃんたちに話しかけられている時の緑谷くんはいつも大抵こんな感じなので、これが女子に話しかけられた時のデフォルトの反応なのかもしれない。
初々しくて可愛らしいな、とは思うけれど、少しずつ慣れた方がいいのでは、なんて少しお節介なことを考えてしまったりもする。
こういう時は、あれだ。
暇を与えてはいけない。
引くタイミングを作ってはいけない。
勢いのままに押し切ってしまうに限る。