ただ君の征く道を
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
苦笑いを浮かべていれば、緑谷くんは何かを決心したように一度小さく頷いてから、私に向かって手を差し出した。
その手には彼の折り畳み傘が握られている。
私は差し出されたその手の意味を即座に理解できなくて、彼の手をまじまじと凝視してしまった。
身体にうまく馴染んでいない様子の彼の個性は諸刃の剣。
個性を使うたびに傷つく彼の手は傷だらけで、歪になってしまっていた。
でも、私はそんな彼をいつもすごいと、格好いいと思ってしまう。
ぼろぼろになって、傷ついて。
それでもなお、ヒーローを目指して前へ進む彼は眩しくて、目がくらみそうになる。
何かあるとすぐに挫けそうになってしまう私とは一番遠い、対角線上にいて。
すぐ近くにいるはずなのに、誰よりも遠くにいるような、そんな風に錯覚を起こしてしまう時がある。
「よかったらこの傘使って?」
緑谷くんの手を凝視したまま固まってしまっていた私は、緑谷くんの声で我に返る。
弾かれるように見た緑谷くんの表情は穏やかで、優しくて。
彼は本当に困っている人を、救けを求めている人を放っておけないんだな、と思う。
それがクラスメートであれ、恋人であれ、両親であれ、見ず知らずの人であれ。
お人好しで、お節介。
ヒーローに何よりも求められる素質。
彼はそれを誰よりも備えている。
彼がその内に秘めた素質に釣り合うだけの個性を御することができるようになったなら、彼はきっと誰もが羨む最高のヒーローになれるはずだ。
きっとそれは、そんな遠い日のことではないと、私は思う。
羨望で願望に過ぎないけれど。
私自身のことではないけれど、不思議と成就を願わずにはいられない。
彼の歩む道を、応援したいと思ってしまう。
「あ、ありがとう。でも緑谷くんは?」
私はおずおずと問いかけた。
彼の申し出は正直ありがたい。
傘を貸してもらえたなら、雨に濡れずに家に帰ることができる。
でも一つ、どうしても気になることがあった。
それは傘の存在。
普通に考えれば傘は一つしか持ってこないはずだ。
一つあれば、自分は濡れないのだから、それで事足りる。
だからその傘を私に差し出すということはつまり、緑谷くん自身の傘がなくなってしまうということだ。
緑谷くんが誰かに傘を貸すために、もしくはどこかで落としてしまう可能性を考慮して傘を二つ所持してない限りは。