ただ君の征く道を
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「どうしたもんかなー……」
足の速さに自信がないわけではない。
それでもこの雨が降りしきる中を全力で走り抜けるというのはどうにも気が引ける。
感傷的な気分に浸りたいというわけでもないので、できれば濡れ鼠となるのは遠慮したい。
しかし仲の良いお茶子ちゃんたちはすでに下校してしまっている。
救いの手は差し伸べられない。
私はこの窮地を自分一人の力で脱するしかないのだ。
そうだ、改めて天気予報を確認してみようか。
もしかしたら予報が変わって、もう少ししたら晴れ間が見えてくる、なんて奇跡が起こるかもしれない。
一縷の望みに賭けて、鞄の中にしまっていた携帯端末を取り出そうとしたとき、後ろから声をかけられた。
「叶さん?」
名前を呼ばれて振り返れば、そこにはクラスメートの緑谷出久くん。
ふわふわの緑の髪に、頬のそばかすが特徴的な男の子。
その特徴的な髪型が、今は湿気のせいでいつもよりも心なしか膨張している──ように見えなくもない。
いや、たぶん気のせいではない、と思う。
ふわふわ、もふもふ。
……ちょっと、もっさり。
彼の目を見るよりも早く、私は彼の頭を凝視してしまった。
失礼な女だな、と少しばかり遅れて自覚する。
自然な動きで目を逸らしたつもりではあるけれど、もしかしたら彼にはばっちり見抜かれているかもしれない。
見抜いていてなお、彼は空気を読んで私に指摘をしてこないだけなのかもしれない。
これまでの経験上、彼の観察眼はクラスでも抜きんでていると思うから。
「緑谷くん、お疲れさま」
「お疲れさま。傘、忘れたの?」
眉根を寄せた緑谷くんは心配そうに尋ねてくる。
先ほど一瞬でも不謹慎なことを考えてしまった私の胸は罪悪感でちくりと痛んだ。
本当にごめんなさい、緑谷くん。
「うん、天気予報ちゃんと見てなくて」
「そっか……今日珍しくぎりぎりに教室に滑り込んでたもんね」
さすが緑谷くん、周りの様子をよく見て把握していらっしゃる。
緑谷くんの前では絶対に悪いことも隠しごともできないな。
ある意味で爆豪くんよりも、よほど緑谷くんの方が怖いような気がしないでもない。