ただ君の征く道を
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授業中。
何気なく窓の外を見遣れば、いつの間にか空はくすんだ灰色の分厚い雲に覆われて、しとしとと雨を降らせていた。
ああ、雨が降っているな。
ぼんやりとした頭でそんなことを考える。
でも次の瞬間に私の意識は覚醒する。
傘。
私は今日傘を持ってきていない。
何故ならば私は今日寝坊をしてしまったから。
おかげさまで天気予報をばっちり見損ねてしまった。
昨日の夜、三奈ちゃんと電話で一頻り話したあと、なんだか目が冴えてしまった私は、そのままつい夜更かしをしてしまったのだ。
今日もいつも通り授業があることはわかっていたのに。
小テストや抜き打ちテストがなかったことが正直救いだった。
もしも実施されていようものなら、きっとひどい点数を取ってしまったであろうことは明白だ。
その証拠に私の机にお情け程度に広げられたノートには黒板の内容は何一つとして転記されていない。
……あとで梅雨ちゃんか百ちゃんにノートを借りなければ。
いや、そんなことより問題は傘だ。
私の家は雄英高校から徒歩圏内ではあるがかなり離れている。
その距離を傘もなしに歩けば、制服は当然のことながら、鞄の中まで雨水が浸透してしまうことだろう。
授業そっちのけで私は雨空に祈った。
どうかどうか、私が下校するときには雨があがっていますように、と。
──しかし、私の必死の祈りは天に聞き届けられることはなかった。
雨は相変わらずしとしとと私をせせら笑うように降り続いている。
授業中と雨脚が変わっていないことだけが唯一の救いかもしれない。
これで傘も役に立たないような豪雨になっていたら、泣いてしまっていたかもしれない。
もちろん、今いる昇降口で泣き出そうものなら、他の生徒や先生からの注目を集めてしまいそうだからさすがにそのときはぐっと堪えて、誰もいない場所でこっそり涙を流すかもしれない。
でも、とりあえずのところはその必要はないようだ。
だけれども、雨脚が強くなっていないからといって、何も事態は好転していない。
私の手元には傘がないのだから当然だ。
好転も暗転もしない。
ただ私が傘を忘れたせいで家路につくことができない、という事実だけが判然としているだけだ。