きみはここから
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聞き間違い?
それとも私は覚醒しながら夢を見ているの?
瞬きを繰り返せども、爆豪くんはこちらを真っ直ぐに見据えたままだ。
頬を抓って確かめるまでもない。
これは紛れもない、現実だ。
私の知る爆豪くんが。
私が認識している“爆豪勝己”という人物が。
絶対に言わないであろう言葉を口にした。
彼の言葉を頭の中で反芻する。
でもどれだけ思考を重ねようとも、彼の言葉の意味が変わることはない。
彼は進言したのだ、他でもない私に。
私が雨に濡れないように、傘に入れて帰ってやる、と。
ああ、私は彼を誤解していたのかもしれない。
粗野で粗暴で、彼の友人(彼は認めないかもしれないけれど)いわく、クソを下水で煮込んだような性格をしていたとしても。
彼も、私やクラスのみんなと同じ、ヒーローに憧れ、ヒーローを目指しているのだ。
救けないわけがない。
優しくないわけがない。
「いいの……?」
「よくなかったら言わねーわ」
「そ、そうだよね……!」
まだ状況を完全に飲み込めずにいるせいか、私は間抜けにも問い返す。
そんな私の体たらくに爆豪くんはすかさず眉を顰めたけれども、私を傘に入れてくれるという意思は変わらないようで、まだその場に留まってくれていた。
私は爆豪くんの気が変わってしまわないうちに、地面を蹴り爆豪くんに駆け寄った。
私が横に並んだことを確認してから、爆豪くんは持っていた傘を開いた。
彼が持っていた傘は少し大きめで。
身体を密着させながら歩く、という展開はどうやら回避されそうだった。
「……よろしくお願いします」
「……」
返事はなかったけれど、爆豪くんはこちらを伺うように視線を寄越してから、ゆっくりと歩き出した。
私もそれに倣って足を踏み出す。
爆豪くんと二人きりの帰り道。
どこまで一緒に帰れるのかはわからない。
その決定権は私にはない。
すべては爆豪くんの一存。
もしかしたら二人きりでいられるのはほんの短い間だけなのかもしれない。
それでも今日新しい彼の一面を知ることができたように、今からの時間、もっと彼のことを知りたいと思った。
そしてその時間を、彼に少しでも無駄な時間ではなかったと思ってほしい。
大したことは話せないし、気の利いたことも言えない。
どんくさい私は、緊張のあまり墓穴を掘ってしまうかもしれない。
でも、めげない。
私の誠心誠意はきっと爆豪くんに伝わるような気がするから。
私の一生懸命を、爆豪くんは否定したりしないと思うから。
「そういえば爆豪くんは知ってる?──」
《私の知るその人は》
偶然?
必然?
そんなことは今の私にはわからない
でもいつか今日の日を振り返ったときに
傘を忘れてきてしまったことを
きっと後悔したりはしないと思うんだ
了