きみはここから
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「……」
「……」
爆豪くんが見えなくなるまで見送ろう。
理由なんてないけれど、今はとにかくそうしたかった。
相澤先生にお願いする覚悟はもう決めた。
相澤先生はすぐに帰宅したりしないと思うし、爆豪くんを見送るくらいは平気だろう。
……爆豪くんは私に見送ってほしいとか、そんなことは微塵も思っていないと思うけれど。
知らぬ間に見慣れてしまっていた爆豪くんの背中を見つめる。
意外に着痩せする彼の背中は制服越しだとほっそりとすら見える。
あれ?
どうしたんだろう。
爆豪くんは私に背を向けたまま、手にした傘を開くこともなくその場に立っている。
私との別れは済ませた──少なくとも私はそう思っている──のだから、その場に留まる理由が見当たらない。
何か考え事でもしているのだろうか、とも思うけれど、何も今こんな場所で考えなければならないことはないだろう。
だとすれば、爆豪くんが帰路につかない理由は一体何なのだろう。
しばし思案してみるけれど、やはり検討もつかない。
となれば簡単なのは。
そう、本人に問いかけてみることだ。
それが一番確かで、合理的だ。
相澤先生じゃないけれど、そう思う。
「帰らないの?」
私はおずおずと言葉を紡いだ。
雨脚は相変わらず優しいものではなくて。
雨が地面を叩きつける音に負けない程度の音量で私は言った。
きっと、爆豪くんにしか届かないだろう。
でも、周りには今誰もいない。
それだけで十分だった。
私の声に反応して爆豪くんはゆっくりとこちらを振り返る。
こちらから見る爆豪くんは逆光になってしまっていて、その表情まではうまく読み取れない。
こちらを伺うシルエットの輪郭のラインが美しいな、とか言葉に出したら絶対に怒られてしまうだろうことを考えられる程度には私の心は平静を保っていた。
そんな私の心の平静は、次に彼が発する一言によって、いとも簡単に失われることになる。
「……傘、一本しか持ってねぇんだから、はよ来い」
