きみはここから
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「あー……今日ちょっと寝坊しちゃって、慌ててたから確認し忘れちゃった」
いつもは見ているんだよ。
そう言い訳がましく付け足した。
我ながら情けない、とは思うけれど、どう足掻いたところでそれが真実であることに変わりはないし、爆豪くんに今嘘をついても仕方がない。
頭を掻く仕草をしながら、あはは、と渇いた笑いを浮かべた。
「そうかよ」
間髪入れず、しかしゆったりと言葉を返された。
彼からの予想外の返答に少しばかり拍子抜けする。
どんな罵詈雑言が飛んでくるのかと、内心身構えていたのに。
想定していなかった言葉に情けなくも狼狽えてしまった私は、この後に訪れるであろう沈黙が怖くなって、考えも何もまとまらないままに唇を動かした。
どうしてか、私が今何を言ったとしても、爆豪くんは怒らない、ようなそんな気がした。
いや、もちろん限度というものはあるだろうけれど、常識の範囲内であれば大丈夫。
根拠のない自信が、そっと私の背中を押した。
「教室にお茶子ちゃんや梅雨ちゃんが残ってたかとか知らないよね?」
「……知らね」
「……そうだよね。やっぱり相澤先生に相談に行った方がいいかなー」
短い返答ではあったけれど、会話がリズミカルに進んだことに感動を覚えずにいられなかった。
無視されるわけでもなく、思っていたとおり理不尽に怒られるようなこともなく。
爆豪くんは私とは目を合わせてはくれなかったけれど、それでも私は大満足だった。
もしかしたら教室で普通に話しかけたとしても、こんな風に話をしてくれるのかもしれない。
爆豪くんの周りには切島くんたちがいるから、なかなか話しかけることなんてないかもしれないけれど。
爆豪くんの視線の先を辿って雨が相変わらず降り続いていることに気づいた私はそこでようやく彼の帰宅を妨げていることに気がついた。
私を無視せず、彼の方から話しかけてはくれたけれど、それはあくまでも私が昇降口の中央で立ち尽くして進路を塞いでいたからであって、“私がそこにいたから”ではない。
「あ、ごめんね爆豪くん、帰るの引き留めちゃって。雨やみそうにないし、気を付けて帰ってね」
私はできる限りの笑顔を取り繕って、爆豪くんにひらひらと手を振ってみせる。
それを見た爆豪くんは静かに歩き出して、私の横に並んで、そして追い越した。
眼前には見慣れた背中。
そうか、私はいつも彼の背中ばかりを見ていたのかもしれない。
教室で授業を受けているときも。
ヒーロースーツにを身に纏って演習に臨んでいるときも。