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「……傘、忘れた」
絞り出した私の声に、爆豪くんはさらにさらに眉間の皺を深くする。
……どこまで深くなるんだ、爆豪くんの眉間の皺。
知りたいような、知りたくないような。
でももしも知ってしまったなら、その時には私の命の灯火は彼によって爆破されて消えてしまっているかもしれない。
いや、絶対消えてしまっているに違いない。
さすがに命をかけてまで知りたいことではないな、と自分を納得させれば、「呆れた」といった表情を浮かべた爆豪くんと目が合った。
不機嫌、とも違う、なんとも言えない瞳で、爆豪くんは私を見下ろしていた。
「天気予報くらい見てから来いや。バカなんか?」
投げかけられる冷ややかな言葉。
ぐうの音も出ない、とはまさにこのことだと思う。
まさかこんなところで爆豪くんに言われて実感することになるなんて、思いもしなかったけれど。
はた、と冷静になって考えてみる。
もしかして入学してからこれまで、私は爆豪くんと二人で、二人きりで、話したことがなかったのでは、と。
切島くんや三奈ちゃんたちと一緒にいるときに話したことはある。
もちろん授業中に事務的なやり取りや、実習で作戦を立てたりするときにはもちろん話す。
でも、こんな風にとりとめのない、語弊があるかもしれないけれど、プライベートな話をしたことがあっただろうか。
今までのことを思い返してみるけれど、すぐには思い当たらない。
それほど、私と爆豪くんの距離は、関係性は、遠かったのだ。
だからこそ今気づいた。
彼の声に。
緑谷くんに怒鳴り散らすときとも、轟くんに食ってかかるときとも違う。
相変わらず罵倒してはいるけれど、そこに怒気は含まれていない──と思う。
同じタイミングで比較できるものではないから、判断に困るところではあるけれど。
つまり、少なくとも今、彼は私に対しては怒ってはいない。
そもそも傘を忘れたのは私だし──彼の手には傘がしっかりと握られている──これから雨に濡れて帰らなければならないのは私であるのだから、彼に怒られなければならない理由がない。
自業自得、なのだから。