君の瞳に映りたくて
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「…なに?」
「俺には?」
「それおれの前で言う?」
研磨くんが低い声と共にクロくんを睨め付ける。
研磨くんの睨みつけなどものともしないクロくんは、ちらりと研磨くんを一瞥したけれどもすぐに私に視線を戻した。
バレー部の練習や試合を見に行くようになってから気づいたことだけれど、クロくんは基本的には女子には“優しいお兄ちゃん”という感じだ。
饒舌になって照れる研磨くんが珍しいように、クロくんのこんな一面も他の人にはなかなか見せない部分なのではないかとも思う。
研磨くんとの関係があるからだとしても、それだけ私にも打ち解けて、気を許してくれている証拠だと思える。
だからこそ、私も誠意をもって応えなければいけないと思うんだ。
「義理ですが」
「ははは!改めて言われなくても知ってるって!」
からからと小気味よい笑い声と共にクロくんは私から“義理チョコ”を受け取る。
研磨くんの“本命チョコ”には真心と恋慕を。
クロくんの“義理チョコ”には友愛と信頼を。
私の今の感情を込めて作ったお菓子。
少しでも二人に私の気持ちが伝わるといい。
「悠さん、このあとの予定は?」
「うーん…研磨くん次第…?」
「…なにそれ」
「じゃあご飯食べに行きましょう、ご飯!」
「いいね!おなかすいてたんだ」
「…クロも行くつもりなの?」
うんざり、といった表情を浮かべる研磨くんだけど、声色を伺う限りではそれほど難色を示していないように感じられた。
なんだかんだいってもやはり幼馴染。
仲はとてもいいのだろう。
前を歩き出したクロくんに従って歩き出そうとすれば、くいっと服の裾を引かれた。
今私の後ろにいるのは研磨くんしかいない。
つまり研磨くんが私を呼び止めたということで。
そっと振り返れば、まだ少し恥ずかしそうに私から視線を逸らす彼がいて。
「今日、本当はおれも悠に会いたいと思ってたから、来てくれて嬉しい。バレンタインも…ありがとう」
少し早口でそう言うと、まるで言い逃げのように研磨くんは私を追い抜いてクロくんの横に並んで歩き出した。
彼を見上げて何かを言っているけれど、雑踏のせいでよく聞こえない。
宮城に帰る最終電車までそう時間は長くない。
それでも残された時間をめいっぱい楽しもうと思った。
《会いたい気持ちは》
いつでも好きな時に会えるわけじゃない
でもそれは、私が、彼が選んだこと
それでも抑えられないこの気持ちに
たまには正直になってみても
いいんじゃないかと思ったんだ
《終》