君の瞳に映りたくて
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隈があると指摘されたばかりの目元に手をやってさすっていれば、私から目を逸らしていたはずの研磨くんとようやく目が合った。
猫のような金にも似た琥珀色の瞳には私だけが映し出されていて、少しばかり恥ずかしさを感じる。
「どうしているの…?」
琥珀の瞳とその表情を見る限り、怒っていないようだった。
戸惑いと少しばかりの嫉妬。
後者には私の願望が多分に含まれているけれど、そういうことにしておく。
「昨日メールしたときにも、そんなこと少しも言ってなかったよね。クロは知ってたみたいだけど…」
私が答えるよりも早く、研磨くんは矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。
こんなにも饒舌な研磨くんは少し珍しいような気がする。
私が知らないだけでもしかしたらクロくんと二人の時や普段は結構話をしたりするんだろうか。
そう思ってちらりとクロくんを盗み見てみればニヤニヤと意地悪そうな笑みを浮かべているものだから、やっぱり言葉数の多い研磨くんは珍しいのだと思う。
そんな研磨くんを見ることができただけでも、わざわざ東京までやってきた甲斐があるというものだ。
「今日バレンタインでしょ?付き合うことになって初めてのバレンタインだから直接会って渡したいなー、って昨日思い立ってね。でも研磨くんを驚かせたくて黙ってたんだ。でもいきなり行って会えなかったら困るし、クロくんにだけ連絡したの。黙っててごめんね?」
そう言ってから、私は研磨くんに小さな包みを差し出した。
中身はもちろん研磨くんの好きなアップルパイ。
初めて作ったから、研磨くん好みの味になっているかはわからない。
でも何度も試作を重ねてそれなりにおいしいものに仕上がっている…と思う。
バレンタインといえばチョコレートだとは思ったけれど、どうせなら好きな人が好きな物をあげる方が喜んでもらえるんじゃないかと思って、あえてチョコ系のお菓子にはしなかった。
研磨くんはしばらくじっと私が差し出した包みを見つめてから、おずおずと受け取った。
いつもあまり表情や感情の読み取れない研磨くんだけれど、今ばかりは私でも少しはわかるかも知れない。
目を輝かせる研磨くんは新鮮で。
そして耳まで林檎のように赤くしているからきっと照れているのだと思う。
いつもは空気を読んでいつの間にかいなくなっていることの多いクロくんだけれど、今もってこの場に居続けているのはきっと幼馴染のこんな表情を見たかったから、だと思わずにはいられない。
大人びているように見える彼だけれど、親しく付き合ってみると意外に子供っぽくて年相応だと思うことが増えたように思う。
「…ありがと」
今にも消え入りそうな、蚊の鳴くような小さな声で絞り出された言葉に、私は笑顔を返す。
喜んでもらえて本当に良かった。
今は何か理由がないと思い切ってくることができないけれど、いつか特に理由なんてなくても会いに来られるようになるといい。
そうなれるような努力だけは惜しまないようにしよう。
内心でそんなことを思っていれば、クロくんがこちらをギラギラとした眼差しで凝視していた。
言いたいことは何となくわかる。
でもきっと私が思っている以上に、君は本日の主役だったのではなかろうか、と思うのだけれど。