君の瞳に映りたくて
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「クロくん!」
私は久しぶりに見る黒髪の彼──黒尾鉄朗に手を振りながら近づいた。
人ごみをかき分けて彼に近づけば、その隣にようやく会いたかった人の姿を認める。
私が来ることをクロくんに聞かされていなかったのか、私の名前を呼ぶクロくんの方を訝し気に見上げていた研磨くんは私の姿を見つけるなり目を見開いた。
その瞳はまるで幻でも見ているようだった。
きっと直前までやっていたゲームは今は彼の手元で所在なさげにしている。
研磨くんは私が今日東京にやってくるなんて夢にも思っていなかったようだ。
それもそうだろう。
私だって数日前までは東京に来るつもりなんてなかった。
宮城と東京。
学生が頻繁に行き来できる距離じゃない。
それでも私は今日は会いたかった。
研磨くんと恋人同士になってからの初めてのバレンタインだったから。
会って、直接チョコを渡したかったのだ。
驚かせたい気持ちもあって、研磨くんには今日東京に来ることを連絡していなかった。
新幹線の中でメールを送ったのは彼ではなく、クロくんに宛ててだ。
つまり授業中にも関わらずすぐに返信をしてきたのは彼なのである。
私を凝視したままの研磨くんに小さくそっと手を振れば、なぜか勢いよく目を逸らされた。
…地味に傷つく。
秘密にしていたことを、もしかしたら怒っているんだろうか。
そうこうしているうちになんとか二人のもとにたどり着くことができた私はほっと胸を撫でおろす。
あまり普段一人で行動しないものだから、安心感がいつもよりもずっとあって、同時にどっと疲弊感が押し寄せてくる。
慣れないことはするものじゃないな、とぼんやり思う。
「お久しぶりです、悠さん」
「うん、お久しぶり、クロくん」
「…なんか少し疲れてる?」
「わかる?」
「目の下ちょっと隈ができてますよ?」
「嘘…!?東京、人が多くてやっぱり慣れないんだよね…」
一応年齢的に先輩である私を多少は敬ってくれているのか、クロくんは敬語交じりで私と会話する。
研磨くんと同じで年上だからといって敬語を使われたりすることにあまり興味関心がない。
敬語でもいいし、別に使われなくたってさして興味はない。
むしろ使うことで距離を感じられてしまうくらいなら使われない方がずっといい。
クロくんは体育会系の部活に所属しているせいか、とても自然に敬語を使いこなしているように思われた。
別にそれが苦痛だ、とかは一切感じていないようだった。