君の瞳に映りたくて
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窓の外を流れる景色をぼんやりと眺める。
ものすごい速さで遠ざかる景色に私は大きくため息を漏らす。
私と彼の距離を改めて実感して。
私たちはこんなにも遠い。
会いたいと思っても簡単には会えない。
どうして私は東京で産まれなかったんだろう。
どうして私はもう少し遅く産まれてこなかったんだろう。
詮無きことを考えて私はまた嘆息した。
新幹線の隣の席が運よく空席なのをいいことに、大きく伸びをする。
恋人のいる東京まで、あと一時間。
あまり三半規管の強くない私は、乗り物に乗りながら小さな文字を読んだりするとすぐに酔って気分が悪くなってしまう。
どんな状況でもゲームをし続けられる彼のことを少し羨ましく思いながら必要最低限の用件をメールに打ち込み送信する。
きっと返事はすぐに返ってこないだろう。
大学生の私と違って彼は高校生。
今は授業の真っ最中のはずだ。
…その、はずだ。
というかそうでないとおかしい。
それなのに私の携帯の通知ランプがメールを受信してちかちかと光った。
「…おい、ちゃんと勉強しろよ、少年」
苦笑いを浮かべながら、私は素早い返信に目を通し、東京への到着時間を添えてもう一度だけ返信した。
***
東京駅。
何度来ても人の多さに圧倒されて目が回りそうになる。
忙しく動く人の波に、自分だけが時の流れから置いていかれているような錯覚を感じずにはいられない。
ともすれば息をするのも忘れそうになる私は、平静を保つためにも大きく一度深呼吸をする。
そして心の中で気合を入れてから、私は待ち合わせの場所へ急ぐべくいつもより意識して大きく一歩を踏み出した。
テレビで見た渋谷のスクランブル交差点よりも流れの向きがある分、幾何かは歩きやすいけれど少し目を逸らすと人にぶつかりそうになる。
歩くのは早い方ではないと思うけれど、東京の雑踏の中で歩を進めると自分がのろまな亀のように思えてきてしまう。
きょろきょろと周りの景色を確認しながら、かつ流れに後れを取らないように歩くというのは私の精神をいつもよりもずっと早くすり減らした。
「悠さん、こっちこっち!」
自分の名前を呼ぶ声に気づいて視線を上げた頃にはマラソンを走ったときのように、私はすっかり疲弊していた。
他の人より頭一つ分抜きんでている彼は人の波の中でもとても見つけやすい。
私から彼は良く見えるけれど、平均的な身長の私を見つけるのは至難の技だと思うのに、いつも彼はよく私を発見してくれた。