その裏側で
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
聞きたかった言葉をもらえて、一気に身体から力が抜け落ちるのを感じる。
ほんの数分間のことなのに、どっと疲れが押し寄せてきた。
こんな疲労感はもうしばらく味わいたくない。
いや、もうしばらくどころか、叶うならもう二度と。
安堵感からようやく彼女から目を離し、悠の注文したミルクティーと同時に運ばれてきたカフェラテに視線を落とせば、小さな掌に頭を撫でられた。
姉が弟にするように。
母が息子にするように。
とても恋人にするような手つきではなかったけれど、不思議と嫌悪感はなくて。
ただただ彼女の細い指先がくすぐったくて、それを受け入れた。
人よりも少し体温の高い彼女の指先は、ミルクティーで温められたこともあいまって心地が良かった。
喫茶店で恋人に頭を撫でられる男子高校生ってどんな状態だよ、と自分につっこみを入れる余裕ができたことにも安心する。
「及川くんが私に愛想をつかしたならいざ知らず、私が君を手放すことはないよ」
優しい声が降り注ぐ。
いつもよりも少し低く、落ち着き払った柔らかな声にぎゅっと胸が締め付けられた。
俺が悠に愛想をつかす。
そんなこと、あるはずがない。
彼女の言葉をすぐに否定したいのに、言葉は喉につっかえて声にならない。
だけどそんなことは微塵も思っていないのだという意思表示だけはしたくて、ゆっくりと首を横に振った。
俺の頭に触れたままの彼女がどんな表情をしていたのかは、俯き加減だった俺にはわからない。
でもきっと先刻のようないたずらっ子のような、無邪気で、それでいて穏やかな顔をしているんだろう。
俺はきっといつまで経っても彼女に頭が上がらないんじゃないか、と思わずにはいられない。
年上だから、ではなくて。
彼女という、一人の人間に対して。
「今のところは、ね?」
冗談めかして言う彼女の声はいつもよりも楽しそうで。
からかわれているのだとすぐにわかった。
きっと、情けなく狼狽した俺の表情を気に入ったのだろう。
上機嫌な彼女からしばらくはからかわれ続けるに違いない。
きらきらと眩しい彼女の笑顔を見られることは嬉しいのだけれど、なんとも言えない複雑な心境だ。
彼女の小さな掌が自分の頭から離れても、すぐには顔を上げられそうになかった。
先刻までの悲壮感に満ちた顔はもうなくて、彼女の言葉と掌の優しさに口元が不甲斐なくも緩んでいることを自覚していたから。
《他の人とは、違う》
彼女の些細な一言で
一喜一憂を繰り返す
それすらいつか
楽しいと思えたらいい
了
4/4ページ