その裏側で
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彼女は嘘をつかない。
いや、それには語弊があるかもしれない。
彼女を知って。
彼女と出会って。
彼女と付き合うことになって。
まだその時間は短いものだ。
俺はまだ彼女の全てを知っているわけではない。
それでも俺は彼女が嘘をついたところを見たことがない。
彼女の言葉はいつだって彼女の本音だ。
つまり彼女は俺のことを面白くないと思っているのだ。
面白くない。
それはすなわちつまらないということだ。
それなのになぜ、彼女は俺の傍にいてくれて、俺と付き合っているのだろう。
面白いということだけが人の全てではないけれど、少なくとも俺はそんな人と一緒にはいられないような気がする。
俺ならすぐに別れるだろうし、そんなことに時間を費やすくらいなら他のことをした方がよほど建設的だとさえ思ってしまう。
やらなければならないこと、やりたいことはたくさんある。
それをすべて実現させるには、今でも時間が足りない。
多くの中から取捨選択をしている状態だから。
彼女もきっとそうだろう。
いつだって何かに一生懸命で、瞳を輝かせて日々を駆け抜けている彼女に、つまらないことに時間を割いている余裕などないはずだ。
それなら。
それならなぜ彼女は。
思考が堂々巡りをしそうになったとき、また彼女の言葉が俺の思考を遮った。
凛とした声に、思考の海の中から現実に引き戻される。
「他には?」
聞きたいことはたくさんある。
でも今この場で確かめたいことはただ一つだけだった。
その答え次第で俺の“これからが決まる。
バレーの試合の時でさえ、こんなに緊張したことはあっただろうか。
鼓動がうるさくて、息がうまくできなくて、もどかしくて。
指先が少しずつ熱を失っていく感覚。
それでも俺は悠から目を離すことだけは絶対にしなかった。
できなかった。
それだけはしてはいけないことのような気がして。
一音一音。
ゆっくりと言葉を紡ぐ。
掠れて、震える声は、彼女の耳にだけようやく届く。
「俺でいいの?」
「君だからいいんじゃない」
なにを、今更。
そう言いたげににやり、と笑う彼女は実際の年齢よりもずっと子供っぽくも見えて。
でもそれはきっと、悲壮感に満ちた表情をしているであろう俺を気遣ってのことなんだろう。
それくらいのことはわざわざ説明されなくてもわかる。
そこまで子供じゃない。
俺にはもったいない、なんて彼女の言葉を真っ向から否定するようなことを考えてしまうけれど。
それでもあさましくも、彼女を絶対に手放したくないと思ってしまう。
ずっとそばにいて、その屈託のない笑顔を見せてほしい、と。