その裏側で
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「及川くんって結構子供っぽいところがあるよね」
日曜日の昼過ぎ。
街で偶然見かけて入った彼女の好きそうなレトロな雰囲気のカフェで。
砂糖をたっぷり入れた甘いロイヤルミルクティーを飲みながら、彼女はそう言った。
聞き間違いかと思った。
いや、聞き間違いだと思いたかった。
しかしどうやらそうではないようで。
俺は唐突に何の前触れもなく、後ろから鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
頭ではその言葉を正しく理解していても、心がそれを受け入れようとしない。
何かの間違いだ、と必死に否定したがっている。
まるで全力疾走をした後のように、心臓がばくばくと早鐘のように打っていた。
今しがた目の前の彼女──悠の唇から紡ぎだされた言葉、それは今まで付き合ってきた女の子に振られるときの定番台詞。
眼前の彼女の口からは絶対に聞きたくなかった言葉。
それがまさかこんなも早く聞くことになってしまうとは。
まさに青天の霹靂だ。
終わった。
あまりにも短い。
一瞬。
大袈裟かもしれないけれど、そんな風に感じてしまう。
もっと彼女の傍にいたかった。
彼女のことを知りたかった。
打算的な考えなどなく、真っ直ぐに自分に向き合ってくれた彼女だからこそ。
ありのままの自分でいたいと思ったのに。
結局は彼女も他の──
「私、及川くんのそういうところ嫌いじゃないよ」
俺の思考を遮って、彼女は事も無げにそう言った。
先ほどの、俺にとっては死の宣告にも等しい言葉には、何の意味もないのだとでも言いたげに。
まるで涼やかな風のような軽やかさで。
「へ…?」
自分でも間の抜けた声を出してしまったことがわかった。
でもそんな声以上に、顔はもっと間抜けだったんだと思う。
それを物語るように、俺の顔を見ていた彼女がくすくすと小さく笑った。
「ふふ、どうしたの、変な顔して?」
屈託なく笑う彼女は本当に綺麗で、可愛らしくて。
らしくもなく駆けずり回って、やっと自分の気持ちを伝えることができて、ようやくその努力が実を結んだばかりだったのに。
勝手に彼女の言葉の意味を取り違えて。
勝手に終わりに怯えて。
続いた言葉の予想外さに思考回路がショートしてしまった。
それでも何とか言葉を紡がなくては、彼女にその真意を確認しなければ、と唇を動かす。
絞り出した声は、情けなくも少し震えていて。
彼女にそれが伝わってしまわないことを必死に願った。
「大人っぽくなくていいの?」
「私の方が大人じゃない。嫌味?」
淡々と彼女は返す。
こちらを真っ直ぐに見据える瞳は少し恨めし気で。
本気ではないことはほんのり緩んだ口元から理解はできるけれども、彼女の機嫌を損ねてしまったことは間違いないようだ。
「優しくなくていいの?」
「優しい、の定義は人それぞれよ。私は及川くんは十分すぎるほど優しいと思うわ」
ふんわりと柔らかい笑顔を浮かべて彼女はそう言った。
こんなときに、彼女が年上でずっと経験豊富なんだと思い知る。
言葉の重みが、同年代とは比較にならない。
だからこそ、俺は彼女の言葉の一つ一つに過敏に反応してしまうのかもしれない。
「面白くなくていいの?」
「及川くんが面白かったことなんてない」
「……」