愛を知らないままで
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「…イフ」
僕はまたイフの名を小さな声で呼んだ。
だけどイフは相変わらず整った寝息をたてたままだ。
きっと、とても疲れているんだろう。
イフが突っ伏した机の上には開かれたままになった古い文献。
イフがまだ深い眠りについていた頃の書物だ。
所々に付箋が付けられていて、イフがとても真剣にその書物を読み進めていることが手に取るように分かる。
本当は今すぐにでも書物を読むことを止めさせたい。
イフの疲れた笑顔を見るのは嫌なんだ。
初めて会った時に見せてくれたような明るくて、優しい笑顔が見たいんだ。
でも僕には止めることが出来ない。
イフの意思はそれほどに堅いものであるから。
そして何より、イフがそこまで真剣になって探してくれているのは、僕たちが消えない方法だったから──
この世界に対して別段思い入れはなかった。
まだ生み出されて間もなかったし、何より僕たちには生まれてきた理由があったから。
その目的を成し遂げたら。
母さんの願いを叶えたら。
あとのことはもうどうだってよくて。
何も考えていなかったから。
イフや兄さんの存在は知っていた。
形を得る、ずっとずっと前から。
さして興味もなかった。
だってどうせ二人は僕たちの敵にしかなり得ないと分かっていたから。
でもそれがどうだろう。
姉さんは、イフは。
あれほど大切にしていた仲間の元を離れて、僕たちの側にいてくれる。
単なる思念体でしかない僕たちを守ろうと必死になってくれている。