最初で最後の君との約束
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いつもよりも豪華な夕食と甘いケーキ。
両親と姉からの誕生日プレゼント。
至れり尽くせりの時間を過ごして、ようやくまったりとテレビを見始めた頃、呼び出しベルが室内に響いた。
「あら、誰かしらこんな時間に…」
「俺出てくるよ」
席を外していた姉と、洗い物をしていた母の代わりに俺は玄関へ向かった。
適当にあったサンダルを履いて玄関の扉を開ければ、そこには梨紅さんの姿があった。
部活終わりに来たのだろうか、彼女はまだ制服姿だった。
夜の闇の中でも梨紅さんはきらきらと輝いて見える。
艶々の髪も、夜のせいで少し青白く見える陶磁器のような肌もオレの方が明るい方にいるはずなのに、少し眩しい。
玄関の扉を開けたオレと目が合うと、梨紅さんは花がほころぶように、ゆったりと優しい笑顔を浮かべた。
ねえちゃんと同じ歳のはずなのに、梨紅さんはずっと大人っぽく見える。
だからこそ、余計に自覚させられてしまう。
残酷な現実を突きつけられてしまう。
梨紅さんは大人で、オレは子供なんだって。
「こんばんは」
「こんばんは、梨紅さん。ねえちゃんだよね?」
踵を返して自分の部屋にいるはずのねえちゃんを呼びに行こうとすれば、後ろから焦ったような声で引き留められた。
「あ、違うの!今日は尽くんに用があって…」
その声にオレは勢いよく振り返る。
まさか、まさか、まさか。
隠しきれない期待から自分の目が爛々とするのがわかった。
そんなオレの様子には気づいていない梨紅さんは我が家の玄関の灯りを頼りに、ごそごそと鞄の中を探る。
そして目的の物を見つけると、そっとオレに差し出した。
水色の包装紙でラッピングされた、長方形の小さな箱だった。
「お誕生日おめでとう、尽くん」
「…っ!」
祝ってなんてもらえないと思っていた。
だって、そもそも自分の誕生日を教えた記憶がなかったから。
「驚かせてごめんね。美奈子ちゃんに、今日が尽くんのお誕生日って聞いたから」
驚きと嬉しさと。
感情の処理が追い付かずに、梨紅さんが差し出した誕生日プレゼントを見て硬直してしまったオレの手を取って、梨紅さんはオレにそれを握らせた。
「あ、ありがとう…!」
弾き出されるように、オレはなんとかお礼の言葉を口にした。
もっと気の利いた言葉もあったかもしれない。
でも今のオレにはそれだけで精一杯だった。
「尽くんの好きな物がわからなくて…気に入ってもらえるといいんだけど」
「絶対気に入るよ!大切にする!」
「ふふ、ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいな」
まだ中身が何なのかは開けていないからわからない。
それでも選択肢はその一択しか存在しない。
梨紅さんから貰ったものを、大切にしないなんてありえない。
どうやら必死さだけは伝わったようで、梨紅さんは柔らかく微笑んでくれた。