最初で最後の君との約束
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「お前、名前は?」
私が靴下に付いた葉を取っていると、葉月くんがポツリと口にした。
私の瞳を真っ直ぐに捉えたまま。
そういえば、私葉月くんの名前だけ聞いておいて自分は名乗ってなかったんだ。
興奮していてつい忘れてた。
何か頭の中にあると、それ以上の事が考えられなくなるんだよな。
何とかしなくちゃとは思ってるんだけど。
私は改めて葉月くんの方に向き直って手を差し出す。
「自己紹介が遅れてごめんね。私は浅海、浅海梨紅。これからよろしくね」
「……ああ」
ややあってから、葉月くんは私の手を握り返した。
その微妙な間が何を意味しているのか私には分からなかったけれど、高校に来て早々新しい友達が出来た事が何よりも嬉しかった。
葉月くんはエスカレーター組みなのかな。
それとも私みたいに外部入学なのかな。
もしも持ち上がり組みなら、この学校の事とか教えてもらえるかな、と思って彼の名を呼ぼうとした時──
キーンコーンカーンコーン…──
無情にもチャイムの音が学園内に響き渡った。
ちょっと待って。
確か入学式の前の集合の時間なんじゃ……
慌てて時計を見てみると、時の針は刻限の時間を指し示している。
今から走って行って入学生の列に滑り込めるか微妙なところだ。
こんな所で葉月くんと和やかにお話をしている場合じゃない。
「葉月くんも一年だよね?どうしよう、入学式、始まっちゃうよ。早く行かなくちゃ……!」
私が慌てて走り出そうとしている横で、葉月くんは悠長に純白の教会を見上げている。
ひどく物憂げな眼差しで。
何か特別な思い入れがあるのか。
そうでなければ、高校生がそんな表情を出来るはずがない。
「葉月くん……?」
「行けよ、入学式」
「でも、葉月くんはどうするの?」
私がそう尋ねると、葉月くんは相変わらずの無表情のままで教会を指差した。
私はその意味が分からなくて首を傾げる。
すると葉月くんは私にも分かるようにちゃんと言葉で表現してくれた。
「俺は此処で入学式」
「?」
「遅刻しそうなんだろ。遅れたら五月蝿いぞ」
「わっ、それは嫌!じゃあ私は行くけど……葉月くん、またね!」
私はそのまま踵を返して体育館を目指した。
入学早々怒られるなんてごめんだもの。
私は一度も振り返らずに走り続けた。
どうしてか、振り返ってはいけないような気がして。
私の高校生活は『此処』から始まる──
《終》