右手に太刀を左手に君の手を
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「帰ろ、慶次?」
私が手を差し伸べると、慶次はゆっくりと私の手を掴んで立ち上がった。
大きな手は私の小さな手をすっぽり包むには十分過ぎて。
この手で幾度となく私の命を救ってくれたのだと思うと、何故だか無性に泣きたくなった。
今日が星のない、月明かりだけの夜で良かった。
心底そう思う。
もしも星が明るく煌めいていたなら、私が泣きそうになっているのを、きっと慶次に見つかってしまっていたと思うから。
そうなってしまえば、また慶次に迷惑をかけてしまうのは、目に見えて分かっていたから。
今宵のこの薄暗闇の中でも、もしかしたら慶次は気付いているかも知れないのに。
慶次は私の手を握り締めたまま、離そうとはしなかった。
私の「離さないで」と願う心を見透かしているかのように。
「……明日、きっと雨だね」
「あぁ。星が見えないからな」
本当にどうでもいい、他愛のない話。
いっそ言葉を紡がない方がましなのではないか。
そんな風にも考えるけれど、やっぱり沈黙は嫌いで。
次の言葉を探してしまうんだ。
「ね、次晴れたらさ、幸村達に会いに行こうよ。久し振りに手合わせしてみたいな」
「そうだねぇ……こないだ幸村に会った時、あいつも千里に会いたがってたからな」
「本当!?じゃあ早く行かないと、だね」
私が笑うと、慶次も柔らかく微笑んでくれる。
戦いはまだ終わらない。
いつ終わるのかも、誰も知らない。
それでも大好きな人のこの笑顔を守る為に、私は鬼神と化してでも太刀を振るおう。
この命、尽きるまで。
元の世界に戻される、その日まで──
《終》