右手に太刀を左手に君の手を
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焦点の合わない瞳で空を見上げる私を、慶次が心配そうに覗き込んでくる。
普段の豪胆な性格からは全く想像が出来ないほど、私と二人きりの時の慶次は優しかった。
「どうした、こんな時間に抜け出して……またあの時のことを考えてるってのかい?」
あの時というのは、言うまでもなく山賊掃討戦の時の出来事だ。
慶次もあの時の私の様子がおかしかったことを、気にとめてくれているらしい。
そんな慶次の心使いが嬉しくて、大の字の体勢から寝返りをうち、彼の方へ体を向けた。
「……どうしても考えてしまうんだ。あの子はもう一人の私、だったんじゃないのかなって」
「もう一人の千里?」
私の言葉の意味が理解出来ていない様子の慶次は、目を大きくしながら尋ねてくる。
動物のように黒目がちな瞳は、真っ直ぐに私だけを見つめている。
私は頭の中で今までの日々を振り返りながら、一つ一つ丁寧に言葉を選んだ。
私のいた世界のことがばれてしまわない程度に。
その事実を明かしてしまったら、私はきっと今までのように、慶次の傍にいることが出来なくなってしまうだろうから。
「私が元いた世界から、この戦国の世に飛ばされて、右も左も分からなくてとても不安だった。彷徨っていた私を慶次が見つけてくれて。私に戦う術を、生きる術を教えてくれて……」
思い返しながら言葉を紡ぐことによって、あの辛かった日々がまるで昨日のことのように思われる。
返らぬ日々ではあるけれど、私にとってあの日々ほど忘れられぬものはない。
慶次は切々と語る私を見つめながら、黙って聞いていてくれていた。
「信長様に出会って、幸村や孫市、阿国さんとも友達になれて……戦が辛くない訳じゃないけど、私は十分恵まれた道を歩んできたと思うんだ」