右手に太刀を左手に君の手を
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「では次の仕合…真田幸村!一ノ瀬千里!前へ」
名を呼ばれて、私は双剣を片手に前へ出る。
戦の時にいつも使っているものではなく、逆刃のものだ。
仕合でまさか真剣を使う訳にもいかないだろう。
自然と柄を握り締める手にも力が籠る。
まさか幸村様とこうして手合わせが出来る日が来るなど、思いもしなかったから。
私は深呼吸をしてから幸村様と対峙する。
「幸村様、よろしくお願い致します」
「私の方こそよろしく頼む」
幸村様の言葉を聞いて私は双剣を低く構えた。
たとえどんな予想外の一手を放たれたとしても対応が出来るように。
腰が高くては対応出来るものも出来なくなる。
普段は優しげな眼差しをしている幸村様の目も鋭くなる。
真一文字に引き結ばれた唇に幸村様がこの仕合に対して本気で望もうとしていることが伝わってくる。
それを理解すると嬉しさと同時に緊張感が込み上げてくる。
心臓が高鳴るのを感じずにはいられない。
平静を保とうとすればする程に、心に焦りが生まれてくる。
そして同時に私の内側に生まれる不思議な感情。
躯中が疼いて、戦いを求めている。
私を飲み込むように蠢く黒い感覚。
私はこの感じを知っている。
戦に出る度に奪われそうになる自分自身。
その感覚が今どうして訪れるのか。
ただ幸村様と練習として刃を交えるだけなのに。
私が私じゃなくなる──
私は必死に自分を繋ぎ止めようとしたけれど。
努力も空しく私は意識を手放してしまった。
私の意識の最後に残っているのは幸村様が槍を構えたその姿だけだった。