右手に太刀を左手に君の手を
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くのいちを相手に話をそらすことは、どうやら私には出来ないらしい。
「嫌ではない……の。ただ時々不安になるの」
私はくのいちと話す時にはありのままの“千里”の言葉遣いになる。
くのいちは私に私でいる場所を与えてくれた。
くのいちが正面から本当の私を受け入れてくれるから、私はこの武田軍の中で正気を保っていられる。
「不安?どうして?」
「戦場に出陣して剣を振るい、敵兵を切り捨てる……そうしていると時々私が私でなくなっているような気がして……私の中の“鬼”が、“戦人”が、目醒めるような、私が飲み込まれてしまうような」
「ふ~ん」
くのいちは顎に手を当てて、考え込んでいる体勢をとる。
でも、それもすぐに止めると、私の額を小突いた。
あまりに突然のことで、私は対応しきれない。
「く、くのいち!?」
「気にしすぎ。戦場に出たら誰だって自分を見失いそうになるもんよ。あんな場所で正気を保っていられる方がどうかしてる……って私は思うけどなあ」
「それはくのいちにも当てはまること?」
「んんー?そうかもねぇ、よくわかんないけど。にゃは♪」
くのいちはぴょん、と木の枝にぶら下がる。
そしてにやにやと悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
「その気持ちも一緒に幸村様にぶつけてみたら?案外うまくいくかもよ~?じゃあねぇ~」
軽やかに木の幹を駆け上り、塀を伝ってくのいちは駆け出してしまった。
……くのいちには仕合、見てほしかったのにな。
私は仕方のないことを考えながら、人波をぬって前に進み、幸村様との手合わせのために名を呼ばれるのを待った。