右手に太刀を左手に君の手を
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「千里様……どうかそのように悲しい顔をなさらないでください」
私の陳腐な言葉にも、あなたは言葉を返してくださる。
煩わしいのであれば、無視してくださって構わないというのに。
千里様はゆっくりと顔を上げる。
その表情はどこか決意にも似たようなものが見え隠れしていて。
まるで、武将のようにも思われた。
異国の者が持つ瞳の色によく似た色素の薄い瞳が、まっすぐに私を射抜くように見つめてくる。
「そんなあなただからこそ、私はあなたにこの願いを託したいと思うのです」
「私に……願い、でございますか?」
「はい。幸村様にだけ、お頼み申し上げます」
千里様はそこで一呼吸置いてから、もう一度言葉を続けた。
「どうか…どうか勝頼殿をお守り下さい。あの子は総大将になど向いていない。本当に心優しい方なのです」
なぜ今、今回の戦に限って千里様がこのようなことをおっしゃるのか、私には分からなかった。
千里様は先見の力でもお持ちだとでもいうのだろうか。
戦国最強とまで謳われる武田騎馬軍団が、うつけ者と呼び称される織田信長の前に敗れるとでも?
だが、その真相を聞くつもりにはどうしてもなれなかった。
聞いたところで、千里様は答えてくださらないような気がしていた。
千里様の眼差しは、私を見据えてはおらず、どこか遠くをご覧になっていたから。
「何をおっしゃいますか、千里様。家臣として、主をお守りすることは当然のこと。わが命に代えましても勝頼様はお守りいたします」
私がそうきっぱりと言い切ると、千里様は、苦笑いを浮かべられた。
あなたがそのような表情を私に見せてくださったのは初めてだった。
ほかの将たちに比べれば、千里様のお傍にいた時間は長いと自負している。
だがそれでも、このような表情を見えたことはなかった。
千里様の目尻には涙が溜まり、その大粒は今にも零れ落ちてしまいそうだった。
その涙を隠すかのようにあなたは無理やりに笑顔をお作りになる。
しかし、そんな笑顔を私は見たかったのではない。
私はあなたの花のような笑顔が見たいのです。