右手に太刀を左手に君の手を
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千里様は膝の上に置かれた手を指先が白くなるほどに握り締めたまま、小さく口を開いた。
あなたの口から紡がれた言葉は私の予想通りだった。
「……勝頼……殿から」
千里様は複雑な面持ちで私を見上げられる。
もしやあなたは私があなたを咎めるとお思いなのだろうか。
潤んだ瞳が、言葉よりも雄弁に真実を語っている。
「勝頼様が……」
「私が無理に聞き出したのです。どうしても知っておきたくて……勝頼殿やあなたが、誰と刃を交えるのかを──」
あなたはどうしてそんなにも人の心を揺らすのが得意なのだろう。
期待してしまいそうになる。
あなたが私などのことを、もしかしたら気にかけて下さっているのではないか──と。
「此度の長篠の戦……おそらくは父上亡き後以来、最大の戦になるでしょう。勝頼殿には……未だ荷が重すぎるのではないかと私は思うのです」
「……千里様」
「幸村様とてそう思われているでしょう?」
千里様は縋るような眼差しで見上げられるが、私は静かに首を横に振った。
確かに勝頼様は歳若く、お館様に比べれば軍略も浅い。
だが、勝頼様が兵法を学ばれていることを知っている私には首を縦に振ることなど出来そうになかった。
私が否定の意思を表すと、千里様は本当に驚いたかのような表情をされた。
「幸村様は本当にお優しいのですね」
「優しさから申し上げているのではありません。勝頼様が努力なさっていることを知っているからこそ申し上げるのです」
「しかし戦場では努力など何の役にも立ちませぬ。己の実力のみがものをいう世界だということは私よりも幸村様の方がご存知なのではないのですか?」
私は疑問に思わずにはいられなかった。
千里様はこんなにも強情で、強い物言いをされる方だっただろうか。
いつも控えめでいて、一歩引いて話される方だと思っていた。
「それはこの幸村、よく肝に銘じていることでございます。しかし、勝頼様は負けませぬ。この幸村が必ずお守りいたします」
私の言葉に千里様は表情を翳らせた。
伏せられた瞳を長い睫毛が覆う。
あまりに深い悲しみに満ちた表情をするあなたに、私はそれ以上どんな言葉をかけて差し上げればいいのかわからなかった。
戦場で行き続けていた私だ。
女性を慰めるための言葉など持ち合わせていなかった。