右手に太刀を左手に君の手を
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あなたを思い出す時にはいつも美しくも儚い、花のような笑顔を思い出す。
いつだってあなたは誰かを思いやり、微笑みを絶やさない方だった。
だからこそ。
あなたが最後に見せた涙と泣き笑いが今この時でさえ、色鮮やかに蘇る。
もう戻ること叶わぬ日々と共に──
《笑顔の記憶》
「千里様、真田幸村、ただいま参上仕りました」
私がお声をお掛けすると、部屋の中からは今にも消え入ってしまいそうな小さな声が聞こえた。
常日頃の千里様の声色を考えると、ひどく頼りないその声に私は胸が苦しくなる。
「どうぞ、お入りください」
「失礼致します」
招き入れられた千里様の部屋。
幾度となく訪れたこの部屋が、今日はいつもよりもずっと感慨深く思われる。
「よく来てくださいました……」
沈んだ声のままではあったが、千里様は私を労って下さる。
あなたはいつでもご自分のことよりもまず他人を優先させる。
それがお館様であれ、勝頼様であれ、一家臣である私であれ、皆対等に。
そのお心遣いに私たちのような将や兵は支えられ、励まされているのだ。
「どうぞお掛けください。今日は幸村様に大切なお話があってお呼びしたのです」
「はい、ありがとうございます」
私は千里様のお言葉に感謝の意を述べてから、千里様の前に腰を下ろした。
いつもはそれほど感じていなかったのだが、今日こうして千里様の前に腰を下ろしてみると、千里様はとても小さく感じられた。
まるで頼りない、小さな子供のように。
「父がこの世を去ってから……早いもので二年もの月日が流れました」
千里様は私とは視線を合わさずに、視線は畳の上に落としたまま、喉から声を絞りだしておっしゃられた。
膝の上で軽く重ねられた手が小さく震えている。