無意識の海より生まれ出づるもの
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「これだけは、言っておくね。もしも“あれ”がまた私たちの前に立ち塞がるのなら──私は“あれ”と戦うから」
黒瑙は物怖じした様子もなくそう言った。
きっと俺が何を言っても黒瑙は自分の意思を曲げないだろう。
自我の強いところは子供のころからずっと変わらないから。
「分かった」
俺はそう言った黒瑙に対してただ頷くことしか出来なかった。
でももしも和也と黒瑙が戦うようなことになったとしたら、俺は迷わず黒瑙の為に戦うだろう。
俺は、きっとそうする。
黒瑙を守るためなら。
「でも今考えなくちゃいけないのは、和也のことじゃなくてこれからのこと、だよ?」
ぱっと表情を切り替えて、黒瑙は明るい顔を取り繕う。
花のようなささやかで、それでいてでも暖かな表情。
この氷の世界の中でも、より一層美しく輝いている。
「今度は尚也の手、冷たくなっちゃったね」
黒瑙は俺の手に触れる指先に力をこめて言った。
ほんのりと暖かくなった黒瑙の指先は、昔と少しも変わらずに俺を安心させてくれる。
だからこそ、俺は前に進もうと思えるんだ。
和也を失った時も。
今この絶望的な状況下の中でも。
ただ黒瑙が俺の側にいて、屈託なく笑うから。
「ね、足音、聞こえない?」
それが仲間たちの足音だということくらい、俺にもすぐに分かった。
助けに来てくれると信じていたから。
二人だけでいることを許された残された僅かな時間を惜しむように、俺は黒瑙と繋がっている指先に力を込めた。
《終》