無意識の海より生まれ出づるもの
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俺の腹の上には幅の狭い小さなセーターがかけられていた。
ほんのりと甘い黒瑙のお気に入りの香水の馨りがする。
「ほら、雪山とかで寝ると死んじゃうって聞いたことあったから。ちょっとでも暖めないといけないと思って」
雪山で眠ってしまうのと、この雪の女王が創り出した氷の世界で眠るのと、全く同じ末路を辿るとは思えなかったが、あくまでも黒瑙の瞳は真剣だった。
それに自分を思ってしてくれたことだと思うと無碍に怒る気にもなれない。
力なく微笑む黒瑙に、俺はすぐさまセーターを羽織らせた。
それで黒瑙の失われた体温がすぐに戻るとは思えなかったけれど、血の気が失せ、青白い顔をしている黒瑙を見ていられなかった。
「え、いいよ。尚也がしばらく羽織ってなよ」
「いいから羽織ってろって」
俺は無理やりに黒瑙の肩にセーターを押しつけると仕方なく、といった感じで黒瑙はセーターに袖を通した。
「それにしても──」
「無茶するなって言いたいんでしょ?」
俺が言いたかったことを、黒瑙は俺の言葉を遮って口にした。
俺が心配するのを分かっているくせに黒瑙はいつも自分の思い付いたことを行動に移す。
何も言わずに行動するのと同じくらいに性質が悪い。
「分かってるならするなよ。心配するに決まってるだろ」
「でもそうしなきゃ麻希が落ちてたし」
「お前が落ちてもお前が怪我するだろ?」
俺が捲し立てるように言うと黒瑙は少し驚いたような表情をする。
まるで俺の言葉の意味が分かってないような。
「うーん、だって大丈夫な気がしたから」
「あのなぁ……」
黒瑙の言葉に俺は呆れてものが言えなくなりそうになる。
そんな俺の気持ちを少しも気に止めることもなく、言葉を紡いだ。