何色にも染まらぬ君へ
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その名を呼ぶと、少女はくすぐったそうに表情を緩めた。
だがそれはほんの一瞬だけで、また凛とした眼差しを向けてきた。
それはあの頃と少しも変わらないあまりに真っ直ぐな瞳だった。
「正解。もっと早く気づいてくれてもいいんじゃないかな」
「……本当に伊都ちゃん?」
「だから正解って言ったじゃないですか」
くだけた口調と敬語交じりなのは昔と変わらない。
どちらかに統一するつもりはないと言っていたような気もする。
それが彼女の自我が強い一面を強調させているような気もする。
「いや、本当に変わったなって思って」
「うふふ、いい女になったでしょ?私は自分で言った事にはちゃんと責任を持つ女ですから」
「そう、だね。うん、綺麗になったね」
悟が感心したように言うと、伊都は少し頬を膨らませながら見上げてくる。
正体を明かしたことで、行動が少し子供っぽさを増したような気がした。
「それだけ?」
「え?」
「だから、それだけ?って聞いてるの」
「ど、どういうこと?」
「はー…予想はしてたけど、悟さん、ほんっとに変わらないね。安心するけど、ちょっと複雑な気分になる」
伊都は苦笑いを浮かべて言った。
その後カプチーノのコップを片手で玩びながら、悟の胸を小突く。
「待っててくださいね、きっと後悔させてやりますから」
それは宣言でもあった。
きっぱりと、はっきりと。
自分に誓いを立てるかのように。
彼女はやると決めたことは必ずやる。
出来ない事は決して口にしない少女だった。
きっと、それは昔も今も変わらないはずだ。
「誰が、何を?」
悟が聞き返すと、伊都は自嘲めいた微笑をする。
子供の時には見せなかった新しい少女の表情だった。
「悟さんが昔、私を一番に好きになってくれなかった事。絶対、私を好きになってもらうから、覚悟しててね」
宣言、よりも宣戦布告に近い言葉を、悟は静かに聴いていた。
閉じられていた悟の世界は動き出す
記憶の中に生き続けていた少女が
帰って来たことによって──
《終》