何色にも染まらぬ君へ
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あの少女は一体何者なのだろう──
なぜか悟の頭からはその考えが離れなかった。
彼女はただの客に過ぎないはずだ。
まだ店に残っている客となんら変わりはないはずだ。
だがそれでも考えずにはいられなかった。
薫が伊都の話を切り出したからなのか。
それとも、あの少女の容姿が人形のようにあまりにも美しいからそう思うのか。
悟は少女が注文したカプチーノを作りながら頭の中で悶々と考えを巡らせていた。
「おまたせしました。カプチーノになります」
カウンター席までカプチーノを運ぶと、少女は何やら携帯のメールを作成しているようだった。
細い指先がボタンをすばやく押している。
女の子は皆メールが得意だな、とぼんやり思っているといつの間に送信を済ませたのか少女は悟を見上げていた。
少女の漆黒の瞳に映りこんだ自分の姿を見て、悟は不思議に思わずにはいられなかった。
デジャヴのような感じがした。
自分は一度同じような体験をしているのではないかと思った。
だが考えども、その結論に至ることはなかった。
「ありがとうございます」
少女は笑顔でカプチーノを受け取った。
本当に嬉しそうな表情に、悟も思わずつられてしまった。
「ごゆっくりどうぞ」
悟はそれだけ言うと、片付けの仕事をする為にカウンターの中に戻った。
ひどく落ち着かない気分だった。
原因は分かっている。
それはあの少女が自分を見つめ続けているからだ。
意識をせずに仕事に集中しようとしても、射抜くような視線から逃れることが出来ないのだ。
まるで観察でもされているような気分になる。
目が合うと少女は微笑み返してくるだけで、それ以上何かを話しかけてくるわけでもなかった。
「あの、僕に何かついてるの?」
しばらくして、彼女以外の客がいなくなってから悟は思い切って尋ねてみた。
少女は相変わらずの可愛らしい笑顔で悟を見つめている。
悟が首を傾げて見せると少女は少し切なそうに笑った。
「変わらないね、そういうところ」
くだけた口調の言葉に一気に記憶が蘇る。
どうして彼女が店に来たときから気がかりで仕方がなかったのか。
面影があったからだ。
少し大人びた顔立ちの中に、あの女の子の名残が。
日本に帰って来たんだって──
薫の言葉が頭の中にこだまする。
悟はゆっくりとその名を口にした。
噛み締めるように、懐かしむように。
「……伊都ちゃん?」