何色にも染まらぬ君へ
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「ギャレット」の中にはもう二組ほどしか客がいなかった。
その内の一組は女子高生の二人組。
テーブルの上に何やらノートを広げている事から、宿題をしているのか、それともどちらかの子が分からない所を尋ねているのかも知れなかった。
物静かな感じの二人だった。
そしてもう一組──一人という表現が適切だろう──は、若い男性だった。
特に待ち合わせをしている、という風でもなく、テーブル席の片隅でブラックコーヒーを飲みながら小説を広げていた。
いかにも少し時間を潰している、といった感じだ。
──これなら早く店の片付けが出来そうかな。
悟が店内を見回しながらそう思った時だった。
───カランカラン
来店を告げるベルが店内に響く。
人が少なく静かなせいもあってか、その音は「ギャレット」内にいやに大きく響き渡った。
開かれたドアの向こうには一人の女性が立っていた。
透き通るような茶色の髪に、漆黒の瞳。
女性と呼ぶにはまだ顔のつくりに幼さがあり、少女と呼ぶには大人びた雰囲気を持つ不思議な女だった。
どちらかといわれれば少女と呼ぶに相応しいようでもあった。
ドアの近くで立ちどまったまま、少女は中に入ってこようとはしなかった。
ただ店内を少し見回している。
初めてなのかもしれないな。
そう判断した悟は少女に尋ねかけた。
「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」
その声に反応して少女は視線を悟に向ける。
射抜くようなまっすぐな視線を向けてくる少女に悟は少し驚いた。
正直にその少女を「綺麗」だと思った。
表情がなければまるで人形のようでさえあった。
だが少女は生きている。
確かに生きていて、瞬きをしながら悟を見つめていた。
そして、小さな口元が動き高めのやわらかい声が聞こえてきた。
「はい、一人です」
「ご案内してもよろしいですか?」
「お願いします」
「では、こちらへどうぞ」
悟が促すと、少女は大人しくそれに従った。
ヒールの音が静かな店内に高く響き渡った。
悟はその少女を一番奥のカウンター席に案内した。
テーブル席でも良かったのだが、少女がなんとなくカウンターを好みそうな気がしたからだ。
「ご注文はお決まりですか?」
そう尋ねると、少女はメニューに目を通してから、すぐに決断をした。
その速さから察するに、頼むものは初めから決めていたのかもしれなかった。
「カプチーノ、ください」
少女は短く告げると同時に悟の瞳を覗き込んだ。
それはただ目を合わせているだけのようでもあるし、深読みをすれば、悟の表情の変化を読みしようとしているようでもあった。
何故だかその瞳がひどく怖ろしいもののように感じられた。
「かしこまりました、少々お待ちください」
それだけを告げると悟は厨房に戻った。