何色にも染まらぬ君へ
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悟の言葉に、薫と明里は再び顔を見合わせる。
二人の行動を逐一見ていると、本当に気が合うんだな、と覆わずにはいられなかった。
それほどに二人が顔を見合わせるタイミングが絶妙だったからだ。
「……多分、それはないと思うな。伊都は悟兄ちゃんに好かれていないって分かったくらいで悟兄ちゃんを嫌いになるような子じゃないでしょ」
「ははは、それはそうかもしれないね」
「でしょー?じゃなきゃ友達なんてやってないって」
明るく言いながら薫はテーブルの上に置かれていたミルクティーを一口流し込んだ。
明里はまだまじまじと悟の顔を見つめている。
その視線は何か悩んで、考えているようでもあった。
「どうしたの、明里ちゃん?僕の顔に何かついてるかい?」
悟が尋ねると、明里は無自覚で悟のことを見つめていたのか、はっと我に返ると慌てて悟から視線を逸らした。
その頬は少し色づいている。
彼女は「今時の」女の子には珍しいくらいに恥ずかしがりやだった。
「何でもないんです。ちょっと伊都の事考えてただけで……」
明里はそれだけを告げると黙り込んでしまった。
それ以上問い詰めるわけにもいかず、悟は二人にゆっくりするように伝えてからテーブル席を離れた。
***
その日は何故か不思議なくらいに客が少なかった。
薫と明里が帰ったあとは、まるで潮が引いていくように他の客たちも店を後にした。
悟はその事を深く気に留めるようなことはしなかった。
考えても仕方のない事のように思われたからだ。
店の経営状態や、その他にも考えなければいけない事は本当に沢山あった。
それは例えば「伊都」の事。
薫と明里は確かにあの少女が帰ってきたと告げた。
それが何をもたらすのか、悟には到底分からなかった。
従兄妹の友人が帰ってきた。
悟にとってはその程度のことでしかなかった。
彼女を一人の女性として見る、とかそういった事は出来そうになかった。
これからも、ずっと──
悟は小さな小窓から、ほとんど沈んでしまった太陽を眺めていた。