何色にも染まらぬ君へ
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幼い伊都は待っていて、と言った。
それは必ず帰ってくるという証。
彼女は約束を違えるような少女ではなかった。
人には優しく、自分には厳しく。
そして一度口にした事は必ずやり遂げる少女だった。
「それにしても、急に帰って来たんだね。明里ちゃんに連絡は来ていたの?」
悟が尋ねると、明里は静かに首を横に振った。
「いいえ、手紙も来ていなかったんです。でもついこの間、和希が伊都に会って、ご飯を一緒に食べたって教えてくれました」
和希というのは今年高校三年生になる明里の弟だ。
あまり似ていないと明里と薫はよく言うが、悟はまだ一度も和希に会った事はなかった。
「うん、伊都ちゃんが帰ってきたっていうのは分かったけど…どうして僕にそれを?」
悟の言葉に薫と明里は顔を見合わせて笑った。
悪意はないが、いい気はしなかった。
二人が何を言わんとしているのか、悟には分からなかったからだ。
「だって…ねぇ?」
「…ねぇ?」
「?」
本当に分からない様子の悟に痺れを切らしたのか、薫は口を開く。
「だって、明らかに伊都は悟兄ちゃんの事気に入ってたでしょ?」
「……そうだったの?」
「はー…やっぱり気付いてなかったかぁ。何か伊都がちょっと気の毒に思えてきたかも」
薫がうなだれたようにテーブルに突っ伏す。
明里がその様子を見てにこにこ笑っている。
あまり接点もないように思える二人ではあったけれど、意外に噛み合っているようだった。
二人してよくギャレットを訪れたが、悟は喧嘩をしている所は見た事がなかった。
「何の為に伊都が今の時期に日本に帰って来たのか分からないけど……多分会いに来るんじゃないかな、悟兄ちゃんに」
悟の脳裏に遠き日の伊都の姿が浮かぶ。
あの力強い眼差しを持っていた少女が外の世界に触れる事でどう変化を遂げたのか興味はあった。
ただ単純に知人として──
「うーん、ここ数年の間に嫌われていないといいんだけどね」
悟は思ってもいない事を口にした。