何色にも染まらぬ君へ
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「私、もっと大人になって帰ってくるから!だから絶対待っててね!!」
そう言い残していなくなった少女。
まだ年端のいかぬ彼女は少しむきになっていたのかも知れない。
子供だから「優しさ」の意味を取り違えたのだろう、と思っていた。
でも、何年振りかにこの街に舞い戻った彼女は、あの頃とは比べものにならない程魅力的な女性になっていた。
《記憶の中の君は》
「悟兄ちゃん知ってる?」
従兄弟の薫が唐突にそう切り出した。
夕方が沈みかけ、客足も少なくなり始め、席にも空席が目立ち出した頃だった。
一番奥のテーブル席に腰掛けた薫と、その親友の明里はカフェ「ギャレット」のマスターである越ノ雪悟を見上げていた。
「知ってるって、何をだい?」
悟が尋ねると、薫がニヤニヤと意味ありげな含み笑いを浮かべる。
その向かいの席ではらはらしながら明里が見守っている。
「伊都を覚えてる?」
懐かしい名前だった。
もう何年も口にしていない。
誰の口の端にも上がらなかった名前。
その名を薫はさらりと口にした。
悟の脳裏に遠い日の幼い少女の微笑みが浮かぶ。
いつも笑顔を絶やさなかった少女の最後の涙だけがやけに鮮明に悟の脳裏に焼き付いていた。
「伊都ちゃんだよね?君達の友達の」
「そうそう。良かったよ、ちゃんと覚えててくれて」
「あれ?確か伊都ちゃんってイギリスに留学してたんじゃなかった?」
悟は確かに明里からそう聞かされていた。
手紙のやり取りをしている、と聞いた事もあった。
だが、帰ってきた、とは聞いていない。
「そうだよ。私も昨日明里から聞いて驚いちゃったよ。伊都、日本に帰って来たんだって」
薫の言葉を悟は至極冷静に受け止めていた。
いつかそんな日が来ると思っていたからだ。