何色にも染まらぬ君へ
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「もしもし、母さん?」
『あら、和希。どうしたの?メールはちゃんと届いてるわよ?』
「あー、うん、それは分かってるんだけど……」
『?』
「母さん、伊都さんって覚えてる?」
『伊都……って、あの、伊都ちゃん?』
「そうそう」
『でも、どうして突然伊都ちゃんなの?伊都ちゃんは今イギリスの筈でしょう?』
「俺もそう思ってたんだけど、今伊都さんと一緒にいるんだ」
『あら、そうなの?明里も何も言ってなかった筈だけど……』
「で、ちょっとさんに付き合ってから帰るから、少し家に帰るの遅くなると思う」
『分かりました。気をつけて帰ってくるのよ?』
「分かってるって」
『あ、遅くなるようなら伊都ちゃんの家まで送っていってあげなさいね。一人で帰すのは心配だわ』
「はいはい。じゃあ切るよ」
和希は携帯をポケットに戻すと、少し離れてベンチに腰掛けていた伊都に近付いた。
和希が戻ってきた事に気付いた伊都は俯いていた顔を上げる。
闇の中で海莉の黒い瞳がやたらに輝いて見え、白い肌は浮かび上がって見えた。
「おばさまに電話してたの?」
「うん、うちの家、すぐに心配するから」
「昔から変わらないねー、和希くんちは。で、大丈夫って?」
「うん。気をつけて帰ってこい、だって」
「良かった。じゃあ行こっか。一人でご飯食べるの切ないなぁって思ってたんだ」
そう言いながら伊都は立ち上がる。
「え?ご飯食べに行くの?」
「そうだよ?私、お昼も食べてないからお腹ペコペコなのよ」
「俺、お金……」
持ってない。
そう言おうとすると伊都は笑った。
年月を経ても変わらない明るい笑顔で。
和希がずっと憧れていた、あの表情で。
「お姉さんが驕りますよ。ほら、早く行こっ!」
また腕を引かれて歩き出す
帰って来たんだ
あの大切な、年上の少女は
触れている部分から伝わる体温に
そう思わずにはいられなかった──
《終》