何色にも染まらぬ君へ
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──海莉さん?
和希がそう口にした瞬間、女性の表情が柔らかい、笑みの形に変わった。
丸い団栗のような瞳が人懐こく見つめてくる。
名前が当たっていた事は嬉しかった。
少なくとも自分の心の中に「伊都さんに逢いたい」という気持ちがある事を和希は自覚していたから。
だがそれでも和希はうまく状況を飲み込む事が出来なかった。
信じる事が出来なかった。
「本当に、海莉さん?」
自信なさげに尋ねると、女性は少し悲しげな表情を浮かべた。
「本当に伊都ですよ。ずっと会ってなかったもんね、忘れちゃっても仕方ない、か」
「違う!忘れてた訳じゃないんだ。そうじゃ…なくて…」
伊都の表情を見ていたくなくて和希はすぐに否定した。
忘れていた訳でも、分からなかった訳でもない。
ただ──
伊都さんが、綺麗過ぎて。
とても遠い存在に思えて。
まさか俺の事を覚えていてくれたなんて思わなかったんだ。
そう言ってしまいそうになった言葉を何とか飲み込んだ。
今此処で口にするには相応しくない言葉のように思われたからだ。
その意図が伊都に伝わったのかどうか定かではなかったが、伊都はまた笑顔に戻った。
完全、な笑顔ではなかったけれど。
「……ありがと」
伊都はその後、いきなり和希の腕を引いた。
和希はされるがままになる。
抵抗が出来ない訳ではなかった。
だがむしろしたくなかった。
「此処で立ち話もあれだからちょっと移動しよ?」
「ちょっ……伊都さん!?」
和希が多少戸惑ったような声を挙げると、伊都は立ち止まって振り返る。
「ん?あ、もしかして時間、ない?」
「あ、いや……そういう訳じゃない、けど」
「ちょっとだけだからさ、付き合って?」
「う、うん」
頷くと、伊都は一層嬉しそうに微笑んで、和希の腕を引く力を強くした。
それでも、触れられ慣れていない細い指に、和希は戸惑いを隠さずにはいられなかった。