何色にも染まらぬ君へ
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ゆっくりとした歩調で和希は着杜の町を歩いていた。
目的がなくなった以上、早歩きすることも億劫なことのように思われていた。
人々の雑踏は相変わらずで、収まりそうにもない。
もしかしたらこの町は朝を迎えてもこのままではないのか、とも思わずにはいられなかった。
九神炎樹の大きな看板のある交差点の前で信号にひっかかっる。
──ここの信号長いんだよな…
しかし、和希は回り道を選ぶようなことはしなかった。
ただ、面倒だった、というだけの話なのだが。
だが、この選択は和希に懐かしい再会をもたらすことになる──
信号はやがて青に変わり、人の波が前進し始める。
和希もそれに倣って歩を進め始める。
そんな時だった。
自分を見つめる視線に気づく。
柔らかい、でもどこか力強さをを帯びた瞳。
明里と同じ年頃の女性だった。
だが和希はその女性に見覚えはなかった。
年上に明里の友達以外の知り合いなどほとんどいなかった。
だからこそ和希はその女性が自分を見つめていることの理由が分からなかった。
長い栗色の髪に、漆黒の瞳。
黒のスーツに身を包んだ女性は凛としていて美しかった。
「和希くん?」
その女性は和希の前に立ち止まりその名を紡いだ。
和希はその女性から目を離すことが出来なくなる。
「和希くん、だよね?」
女性はもう一度確かめるように名を口にした。
そして和希はその女性の中にある面影を見つける。
とても大好きだった人の名残を。
「……伊都さん?」
和希は小さく名を口にした。
その名しか思い浮かばなかったから。