何色にも染まらぬ君へ
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姉に見つからないように少し距離を取って歩く。
外に出てしまうと警戒心が一気に解かれたのか、明里の足取りは軽やかだった。
正直明里が「ゴージャス」に通っていると知った時、和希も少なからず驚いた。
「ゴージャス」には知り合いがいたからだ。
でもだからこそ今は明里が「ゴージャス」に通うことを心配するようなこともなかった。
なにせ父親の店でもあるし。
駅前通はさすがに真夜中であるというのに人で賑わっていた。
明里のように一人で歩く女性も珍しくはなかったが、数は極めて少なかった。
それに比べれば、スーツに身を包んだ男のほうが多いようにも思われた。
だがそれよりも格段に多いのがカップルだった。
手を繋いだり、腕を組んだりして仲睦まじい様子で歩いている。
はた迷惑なことに道中でキスをしている二人もいる。
──ったく、なんで俺がこんなこと…
そう心の中でぼやきながら、和希は人ごみの中で明里を見失ってしまわないように少し歩を早めた。
「いらっしゃいませ、明里ちゃん。おまちしていましたよ」
店長の水無月に案内されて店の中に消えていく明里の姿を確認してから和希は大きな溜息を漏らした。
どうして自分が探偵の真似事をしなければならないのか。
考えた後で、自嘲的な笑みを浮かべる。
両親の事を過保護だと言っておきながら、自分も実は心配なのだ。
あの頼りない姉が。
自分にとってはたった一人の姉だから。
「はー。さて、帰ろっかな」
誰にともなく呟いて、和希はジーパンのポケットから携帯を取り出す。
両親に明里が無事にゴージャスに着いたことを報告する為だ。
【任務完了】
その四文字だけを打ち込んでメールを送信する。
それだけで十分なのだ。
無事に送信出来たことを確認してからまた携帯をポケットに戻す。
後は来た道を帰って、着替えて寝るだけだ。
とても受験勉強をするような気分にはなれなかった。
歩いたお陰で目だけはしっかりと冴えていたけれど。