どこかのだれかの未来のために
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「仇を取りたい、とか、そんな大それたことを、考えているじゃないの。誰かがまた、士魂号を駆らねばならないというなら、私しかいないと思ったから」
淡々といすみは語る。
その言葉を、僕は黙って聞く。
僕らを撫でる風は、その時に限って妙に生温かったのを、今でも覚えてる。
「本田先生にも、善行委員長にも話してある。もしも次に幻獣が現れたら……私も戦場に、出る」
いすみは今までは、衛生官として戦場に赴いていた。
でも、士魂号に乗って戦場に立つとなれば、話は変わってくる。
命の危機は、パイロットと衛生官では全く違う。
いつだって死を覚悟していなければならない。
それでも僕が士魂号に乗り続けるのは、今はきっといすみを守ることができるから。
きっといすみが“おかえり”って言ってくれるから。
だから僕は、戦えるんだ。
生きたい、と願うんだ──
「厚志の背中は、私が守るから」
絶対に、死なせない。
いすみは、言霊のようにそう言った。
言葉に力がある事を、いすみは誰よりもよく知っているから。
いすみはそっと立ち上がる。
今ではなかなか手に入れられない香水の香りがふわり、と漂う。
柔らかな花の香りに誘われて、僕はいすみを見上げる。
見上げた僕の瞳に映ったのは、予想外の、いすみの今にも泣き出しそうな表情だった。
今思えば、いすみはこの時には既に覚悟していたのかも知れない。
自分の、最期を──
「だから、私の背中は、厚志、君が守って」
それは、懇願にも似ていた。
いすみの、最初で最後の願い。
僕は弾き出されるように、勢い良く一度だけ頷いた。
言われなくたって、そうするつもりだけど。
僕が頷いたことを確認すると、いすみは満足そうに微笑んだ。
何故だかそのいすみの微笑みに、彼女がとても遠い存在のように感じてしまった。
「あ、授業始まっちゃうね。戻らなくちゃ」
時計を確認して、いすみは言った。
そして座ったままだった僕の腕を取る。
そうして二人で走り出した日々は。
もう、戻ることはない──