何色にも染まらぬ君へ
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俺が少し苛々したような表情をすると、途端に伊都の瞳が穏やかなものに変わる。
姉のような母のような。
俺はこんな伊都が本当に好きだった。
俺も伊都もどちらも男で。
受け入れるまでに時間はかかったけれど、今はもうそんなことはどうだっていいんだ。
俺は伊都が好き──
それだけで十分だった。
「心配しなくても大丈夫。森にしかしてないからさ」
年上のくせに妙に子供っぽくて。
でもどうしてか時々すごく頼りになって。
伊都は今まで俺の回りにはいなかったタイプの人間だった。
「絶対?」
俺が伊都に向かって手を伸ばすと、伊都は両手で優しく俺の手を包んでくれた。
「絶対。“これ”は嘘じゃないよ?」
伊都は何故か少し引っ掛かるような言い方をした。
どうして伊都がそんな言い方をしたのかは分からないけれど。
伊都が今此処にいてくれるという真実が何よりも嬉しかった。
「あ、そうそう。おばさんが朝ご飯の準備もできてるって言ってたよ」
「……あんまり腹減ってないんだけどな」
「我儘言うなよ。おばさんの料理美味しいから俺は羨ましいんだからな」
伊都は俺の手を離すと、部屋からすぐに出て行こうとする。
俺は引き止めたけれど、「着替えるんだろ?」って言って振り返らずに行ってしまった。
伊都は本当に掴み所がなかった。
それも魅力の一つなのかも知れないけど。
でも今は追いかける必要はない。
だって階段を下れば、伊都が手の届く距離で、あの笑顔で微笑んでくれるから。
《終》