何色にも染まらぬ君へ
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ややあってから瀬那くんはようやく口を開いた。
それはやっと絞り出したような声で。
「伊都ちゃんにお願いがあって来たんだ……聞いてくれる?」
可哀相なくらいに震えたような、今にも泣き出してしまいそうな声に、私は小さく頷く。
いつもは私が瀬那くんに無理なお願いしてばかりなのに、瀬那くんが私にお願いしてくるなんて本当に珍しい。
だから私にできることなら何だって叶えてあげたいと思った。
私は瀬那くんが次の言葉を紡ぐのをいまや遅しと待つ。
「伊都ちゃんが筧くんたちと仲がいいのは僕もちゃんと知ってる。だけど、お願いだから……今日は泥門を……ううん、僕を応援して欲しいんだ。きっと勝ってみせるから」
「……」
「伊都ちゃんが応援してくれたらもっと頑張れるような気がするんだ。筧くんにだって……負けない」
最後の方の瀬那くんの声はとてもか細くて今にも消えてしまいそうだった。
それでも私の身体に回した腕の力は本当に強くて、少し痛いくらいだった。
でもそれが本当の瀬那くんの気持ちなんだ。
上手く言葉に出来なくても、身体はとても正直に私に思いを伝えようとしてる。
私は今まで悩んでいたことをとても後悔した。
私の安易な気持ちが瀬那くんを、皆をどれほど不安な気持ちにさせていたのか、私は今になって気づいた。
私は取り返しの付かないことをしてしまうところだった。
私はゆっくりと瀬那くんの身体に腕を回してその身体を抱きしめた。
その瞬間、瀬那くんはびくっと体をこわばらせた。
こういうの、慣れてないんだよね。
「大丈夫だよ、瀬那くん。私はデビルバッツのマネージャー兼主務なんだよ?駿のことも健吾くんのことも好きだけど、それとこれとは話が別でしょ?私は皆の味方、瀬那くんの味方だよ」
「本当に?」
「うん、本当。私だって知ってるもの。瀬那くん達がどんな思いでデスマーチを終えたのか。今どんな気持ちで戦おうとしているのか。私は、もう、決めたから」
「……ありがとう」
私の言葉を聞いて、瀬那くんはすぐに私の身体を解放した。
そして満面の笑みを浮かべる。
「良かった。それ聞いてすごく安心した。じゃ、僕、先に行ってるね」
瀬那くんはそう言って、逃げるようにすぐさま駆け出そうとした。
だから私はその前に私はその腕を掴んだ。
いきなり捕まれて驚いた瀬那くんは、急ブレーキをかけて立ち止まる。
「待って。一緒に帰ろ?」
私はそのまま瀬那くんの手をとって歩き出す。
瀬那くんは頬を赤く染めていたけれど、手は繋いだままでいてくれた。
心を揺るがせてごめんね
迷ってはいけないことで迷ってごめんね
でも、もう迷わない
私は今、ここにいるから──
《終》