どこかのだれかの未来のために
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「手を」
いすみはそう言いながら、小さな手を差し出した。
もう一度触れたいすみの手は、握手の時には感じなかったが、ぞっとする程に冷たかった。
触れている部分だけがほんのりと温かい。
それさえも、自分の熱かも知れなかったが。
「何をしているの?」
「呪い」
「まじない?」
「そう。ループを終わらせることができるのは、全てに対する“救済”。全てを赦すことで私達はこの無限のループを終わらせることができる」
まるでそれは呪文だった。
同時に手の平を撫でる指先がくすぐったくて。
厚志はいすみの話に聞き入っていた。
「誰かを失ってはいけない。誰かを憎んだり、疑ってはいけない。……そうすれば、きっと」
彼女は淡々と語った。
厚志には到底計り知れないループを彼女は経験してきたのだろう。
自分も歳の割りには醒めたところがあるが、いすみはそれ以上だった。
手の平に一瞬小さな痛みを感じたかと思うと、いすみは手を放した。
厚志は痛みの原因が何だったのか手を見てみるが、変わった所は全くない。
見慣れた、自分の手だった。
「今」はまだそれ程汚れていない手。
しかし、これから幻獣の殺戮を繰り返す手。
厚志は不思議に思っていすみを見たが、彼女は微笑むばかりだった。
どうやら呪いが何なのか教えてくれる気はないらしい。
いすみは尚敬校の方を懐かしむように見つめた後、厚志の方へと視線を戻した。
その瞳は、何かを決意したかのように見えた。
「これで最後にしようね」
「……うん」
ただ頷くことしかできない厚志に、いすみは努めて明るく笑ってみせた。
それは厚志に心配をかけないための彼女なりの優しさだった。
「行こう、君の大切な人を守る為に。“願い”を叶えるために」
いすみと厚志は尚敬校のプレハブ校舎へ向けて歩き始めた。
何度も歩いたこの道を、今は初めての気持ちで歩いている。
芽吹いた新たな可能性を確かめるために。