あなたの奏でる音色
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「茉麻ちゃん?」
「和樹先輩はそんなことないって思いたかった。でも信じれば信じるほどに怖くて、話せなかった」
茉麻ちゃんはまるでとりつかれたように、言葉を発した。
その言葉の意味が俺にはうまく飲み込めない。
俺はグランドピアノの椅子を引いて、茉麻ちゃんの横に腰を下ろした。
茉麻ちゃんの細い体が一瞬怯えたようにびくっと反応して、またやがて沈黙が訪れた。
「ねえ、俺はどんな時でも茉麻ちゃんの味方だよ?」
子どもを諭すような口調で俺は言った。
不安定な君の心が少しでも落ち着きを取り戻せばいいと思って。
でも君はすべてを否定するかのように首を横に振った。
「みんなそう言うの。でも、私には何も残らなかった」
「残らなかった……ってどういうこと?」
「私、昔も一度聴力をなくしたことがあったの。成功すれば渡欧が決まっていた大切なコンクールの前に」
俺は何も言えなかった。
それは初めて茉麻ちゃんから聞かされる真実で。
俺はそんな体験をもちろんしたことがなくて。
「それは一時的なものだった。お母さんが死んだことがショックだったから。でも、私はすべてを失くした。この手には何も残らなかった」
そこまで言ってから茉麻ちゃんは顔を上げた。
その瞳にはうっすらと涙がにじんでいる。
俺は茉麻ちゃんの手をぎゅっと握り締めた。
冷たいその手に、俺は泣きたくなった。
どうして君ばかりが悲しい思いをしなければならないのか、と。
「今度はきっと完全に聞こえなくなる。私の存在は煩わしいだけのものになる」
