音色を描いて
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「誕生日、祝ってくれてありがとう」
「うん」
「待っててくれて、すげー嬉しい」
「うん」
「ただ、今度からは前もって連絡してくれると助かる」
「…うん」
最後だけが即答でなかったことが気にかかったが、今は問い詰めないことにした。
一刻も早く、この冷えた身体を温めてやりたかったから。
「あ、魁斗、プレゼント」
そう言ってもぞもぞと俺の腕の中でことりが身じろぎをする。
それに伴って彼女が愛用している香水の甘い香りが鼻腔をくすぐって、なんともいえない気分になる。
回した腕に力を込めれば、抗議の声があがる。
「魁斗、痛い。折れる」
「あ、悪い」
反射的に腕の力を弱めれば、ことりはするりと俺の腕の中から抜け出した。
しなやかなその動きは、いつもまるで猫のようだと思う。
むすっとむくれた様子で唇を尖らせているけれど、少しも怖いとか思えなくて。
たぶん口にしたら怒るだろうけど、その仕草は可愛いとしか思えない。
シン君にしたって、霧島君にしたって、きっとそう思うに決まってる。
「あ、そうだ、プレゼント探そうとしてたんだった…」
そう言ってごそごそと鞄を探ろうとしたことりの手をぎゅっと掴んで引いた。
「魁斗?」
「それ、あとでちゃんと受け取るから。とりあえず今はどっか温かいところ行くぞ」
すっかり冷たくなってしまっていることりの小さな手を引いて、足早に事務所の前をあとにする。
ことりが待っていてくれて、祝いの言葉までもらえたことが嬉しくて、つい失念してしまっていたけれど、よくよく考えればここはまだ事務所だったのだ。
まだ誰にも声をかけられてはいないとはいえ、長居は無用だ。
本当はきっととても寒かったんだろう。
ことりは小さく頷くと、大人しく俺に手を引かれて歩き出した。
《約束などなくても》
寒かっただろ?
そう聞けば相変わらず短く
別に、と答えるだけだけど
握りしめた手を
振り払われなくなったこと
それは大きな前進だと思うんだ
《終》