あなたの奏でる音色
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そう発したつもりの言葉。
その音でさえ私の耳は拾わないから、ちゃんと言葉になっていたのかさえ分からない。
ただ見つめた先の蓮くんの瞳が明らかな動揺を示したから、ちゃんと伝わったのだと思う。
それだけでしか確証を得られない自分が悲しい。
「茉麻……」
蓮くんが言葉を紡ぐ。
私の、名前。
今はもう、聞こえない。
君の声はもう二度と。
私には届かない。
そしてこれは、私が望んだ事。
いつかこうなる日が来ると、分かっていた事。
でも私は手術したくなかった。
私から音が失われる事。
それがきっと、私の運命だったんだろう。
自分の運命を呪うつもりも、嘆くつもりもない。
ただその現実をありのままに受け入れたかっただけだ。
名前のような短い言葉なら、唇の動きで理解出来た。
普通の会話をすぐに理解出来るかと言われれば、とても怪しいけれど。
蓮くんは努めて平静を装いながら、私の手を引いた。
ひどく緩慢に思えるその導き方に、なんだか悲しくなった。