幼馴染みと恋人の境界線
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怯えたように震える奏多の躯を、俺は無意識の内に抱き寄せた。
そうしなければいけないような気がした。
奏多はより一層俺を抱き締める腕の力を強めてくる。
その様はまるで溺れる人が必死に助けを求めているかのようだった。
「将臣…?」
蚊の啼くような微かな呼び声を俺は聞き逃したりしなかった。
「ん?どうした?」
俺が聞き返した後も、奏多はすぐには答えを返さなかった。
返さなかった、というよりもむしろ、返せなかったのかも知れない。
「何処にも行かないでって言った…」
奏多は震える声を絞り出して言った。
「朝メシ作ってただけだろ。ちゃんと家にはいるじゃねぇか。それじゃあ不満か?」
また沈黙が続く。
俺は奏多の言葉を待つ。
奏多は必ず何かしらの行動を起こすと思ったから。
回していた腕の力が緩んだかと思うと奏多は腕を突っ撥ねた。
腕を伸ばして互いの躯を引き離す。
「ごめん、今のただの我儘だった!」
先程迄の虚ろな瞳はなく、奏多の薄紅の瞳は真っ直ぐに俺を捕らえている。
涙もすっかり乾いている。
泣いていた事がまるで嘘のようだった。
「ちょっと頭冷やしてくる」
奏多は、そう言って身を翻し、洗面所に向かおうとした。
俺はそんな奏多の腕を掴んで静止させた。
奏多は立ち止まりこそしたものの振り返る事はしなかった。
そう、だったな。
お前は昔から少し気の強い所があって。
自分の気持ちを他人に伝えるのが下手くそだったな。
俺は細い腕をぐいっと引いて、奏多を抱き締めた。
「ちょ…っ、将臣?!」
奏多は驚いてたじろぐが、俺は身動きする事を許さなかった。
暫く抱き締め続けていると諦めたのか、奏多は大人しくなった。