幼馴染みと恋人の境界線
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俺は捲りあげられたままになっていた奏多の着物を下ろす。
人通りは殆ど無かったけれど、他人に奏多の肌をあまり見せたくなかった。
言い方は悪いかもしれないけど、俺たちが元いた世界に比べたら、この世界はかなり物騒な所だからな。
人さらいだって治安の悪い所じゃ、しょっちゅう起こってるみたいだしな。
奏多はそういうことはまだ分かってないんだろう。
俺と違って、この世界に来たのはついこないだだって言ってたし。
「あー…悪かったな。まさかそんなに痕がつくなんて思ってもみなかったから」
「私もそんなに痛いと思わなかったんだけどな。でも見てみたらこーなってたんだ」
「奏多って痕付きやすかったか?」
「んー、分かんない。痕つけようって思ったことないし」
「ま、そりゃそうだよな」
奏多は俺の側を離れて前に立って歩き始める。
そこでふと違和感に気付く。
奏多が俺と二人で歩く時に俺より前を歩いたことは今までに一度もなかった……はずだ。
常に俺の隣にいた。
そうでない時は少し遠慮がちに後ろから歩いていたっけ。
それが今どうだろうか。
奏多は自分から進んで俺の前を歩いている。
奏多に何の心境の変化があったのかは分からない。
ただそれでも確実に彼女は強くなっていると思った。
「なあ、奏多。お前、何か俺に隠し事してないか?」
京で奏多に再会してからずっと疑問に思い続けていたことを口にした。
奏多が今ここで答えてくれる気は殆どしなかったが、それでも今を除いては、もう問いかける機会さえないような気がしていた。
奏多は俺の声に気がついて、振り返ることはせずにその場に立ち止まる。
それに倣って俺もすぐに立ち止まる。
俺と奏多との距離は一メートルほどだ。
仮にまた奏多が逃げようとしたとしてもこの距離ならば捕まえられる自信があった。
「俺には話せないようなことなのか?」
俺の問いに対して答えようとしない奏多に、俺は答えを急かすように言葉を紡いだ。
だが相変わらず奏多は前を向いているだけだ。