幼馴染みと恋人の境界線
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頬に掛かる長い真珠色の髪を耳に掛けてやる。
さらさらの手触りにシャンプーの薫り。
同じ物を使っている筈なのに、奏多から香るだけで優しさが増すように思われた。
「奏多…」
もう一度名を呼んでみる。
今度は微かに無意識下でも俺の声が聞こえたのか、奏多は布団の中でもぞもぞと動いてすり寄ってきた。
ったく、寝てる時の方が大胆な行動に出やがって。
そう本人に言ってやれたらどれだけ楽だろう。
もしも言ったら頬を赤く染めて怒るんだろう。
伊達に幼馴染みやってきた訳じゃないからな。
奏多のやりそうな事は何となく分かる。
静かに上下する体に、俺はいつもどうしようもなく安心する。
目が覚めて、奏多が側にいて「生きている」事に肩を撫で下ろす。
そういう世界で生きてきたから──
長い人生の中の五年に満たない月日を過ごしただけなのに、あの日々は俺をこんなにも変えてしまった。
大切な事も沢山教えられた。
それ以上の物を失ったから。
沢山の犠牲の上に今の俺たちの幸せは成り立っている。
守れるものなら全てを守り抜きたかった。
だが、現実はそんなに甘くはない。
多くを望めば、少しも手に入らなくなる。
後悔だって何度もしてきた。
でも、もう振り返る事はしたくない。
過ぎた日々はもう戻らない。
懐かしむ事、思い出すことは出来ても、やり直す事は出来ない。
そういうとお前はいつも苦笑いしたっけな。
その後に決まって言うんだ。
「何でもないよ」って。
顔と言葉、合ってないって気づいてねえし。
ただ悲しませたくなくてそれ以上聞くような真似はしないけど。
俺にも奏多に言えない事があるように、奏多にも俺に言えない事の一つや二つあるんだろう。