あなたの笑顔を見るまでは
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空気が電気を帯びているかのように、ぴりっと肌を突き刺す。
ちくりとした痛みは、まるで戦場で感じる殺気のようでもあって。
私は思わず気圧されそうになってしまった。
それを何とか耐えれば、泰衡さんが私の胸元を指差す。
「貴女はまだ龍の逆鱗を其処に持っているはずだ」
「…それは……」
「貴女はその逆鱗を俺に託し、いつも俺の腕の中で命を落とす……」
何度も。
何度も、何度も。
そう告げる泰衡さんの顔は悲痛感に満ち満ちていて。
幾度となく彼を置き去りにしてきた他の運命の私は、知らないのだろう。
彼がこんな表情をしている事。
だから、命を投げるような選択を取るのだろう。
今の泰衡さんの悲しい顔を知っているなら、そんな選択肢を選べる筈がない。
今の私には、とてもその道を選べない。
私のせいで悲しみに打ちひしがれる泰衡さんが居るという事を知ってしまったから。
「あの、泰衡さん……」
答えはもう、自分の中でしっかりと決まっていた。
迷う必要などないのだ。
此処には逆鱗をまだ自分で持っている私と、どこかの運命の私が渡した逆鱗を持つ泰衡さんがいる。
全ての記憶を持つ泰衡さんと。
いつかの記憶を持たない私。
知っているから選べる選択肢と。
知らないから選ばない選択肢と。
運命というものは、とても複雑な選択の上に成り立っている。
今の私が此処にいるのも、今の泰衡さんが此処にいるのも、みな奇跡に等しいのだ。
確かに幾つもの可能性がたった一つの運命に帰結する事も確かにある。
それは認める。
でも、運命とは須くそういうものなのだ。
だから、正直な所、今も不安で不安で仕方がない。
今の私と泰衡さんで、本当に私達が望む結末を導く事が出来るのか。
でも一つだけ、揺るがぬものがある──
「私は、もう二度と貴方の側を離れません」
“私”は何度この言葉を口にしただろう。
“私”は何度泰衡さんを傷付けただろう。
でも、これが最後、だ。