あなたの笑顔を見るまでは
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静かに前に出されたまだ温かい食事をゆっくりと口に運ぶ。
ふっくらと炊き上げられた白米も、薄めに味付けられた煮物や焼き魚も。
みんなみんな美味しいのに。
美味しいと感じる心が麻痺していた。
「うん、美味しい」
「それはようございました」
味のしない食物を嚥下しながら、私はそう口にする。
あんなに大好きだった譲の料理の味を、私はもう全く思い出せない。
今誰かが作ったこの料理を、ありがたいと思いながら、でも同時に疎ましくも思っている。
だって。
私の命を繋ぎ止めるから。
「今日は泰衡様が此方にお見えになるそうですよ」
「……そう」
「早く執務を終わらせて、奏多様にお会いしたいと」
「……そう」
銀の薄い唇が紡ぎ出す言葉に、私は機械的に返事をする。
銀の言葉は優しい嘘だから。
私を傷付けない為の。
でも銀は知らない。
その中途半端な優しさこそが、私の頸を締め続けているのだと。
「ご馳走様でした」
「……それでは私はこれで」
「うん、また、明日」
「はい、また明日朝餉の時に」
まだ平家に居た時と同じ柔らかい笑顔を私に向けて、銀は部屋を後にした。
部屋というにはあまりにも圧迫感の強すぎる空間を。
また静寂が訪れる部屋。
泰衡さんが人払いでもしているのか、この部屋に近付く足音は泰衡さんと銀のものだけだ。
初めの頃は金も時折遊びに来てくれていたけれど、最近はめっきり見なくなってしまった。
泰衡さんにひどい事、されていないといいな。
私の所に遊びに来てくれて、それで誰かが傷付くなんて嫌だ。
誰かを苦しめるだけの存在になんて、絶対になりたくない。
そんな事しか出来ないなら“私”なんていらない──
両手の掌をぎゅっと握り締めれば、いつの間にか冷たい事が当たり前になってしまった指先に虚しさが募る。
雪の降り止まぬ平泉だから仕方がない。
そう言ってしまえばそれまでだけど。
でも、それだけじゃない。
人との関わりを極限まで制限され、自由に振る舞う事すら禁じられて。
“人”として扱われていないんじゃないか。
そう錯覚を起こしてしまう度に、私の身体は熱を失っていく。
「脱出する策でも思案していたか、龍神の神子殿?」