それは泡沫
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「経正さん、私…、私……」
彼女は必死に言葉を紡ごうとする。
奏多殿の中の神子としての彼女と、私を好いてくれている彼女とが内側でせめぎ合っているのだろう。
私はそれを優しく制し、許されない言葉を紡ぐ。
また一つ新たな罪が生まれる事を自覚しながら。
それでも、願わずにはいられないのだ。
彼女の立場を理解してなお──
「君が言わんとしている事は分かる。でもその前に、私の思いを聞いてくれないか?」
「……はい」
奏多殿は小さく頷いて、私の言葉を待つ。
私の言葉はきっと彼女を戸惑わせるだろう。
しかし、伝えずにはいられないのだ。
「私を、浄化しないでくれないだろうか?」
その言葉を聞いた奏多殿は、同時に涙を流した。
必死に堪えていた筈の涙は、箍が外れてしまったように、止め処なく溢れた。
私は慌てて指で奏多殿の涙を拭う。
それでも全く追いつかない程に彼女は涙を流し続けた。
それだけ彼女の感情が高ぶっているのだという事が手に取るように理解出来た。
普段はどこか飄々としていて、感情の読めない時ですらあるというのに、今の彼女はまるで子供のように全てをさらけ出している。
「奏多殿、お願いだから、どうか泣かないで。そして私の願いを聞き届けて欲しい」
「経正さん…怨霊として生きるという事がどういう事か分かって言ってるんですよね…?」
涙声のままで奏多殿は言葉を紡ぐ。
分かっているつもりだ。
弟の敦盛は平家で最初に生み出された怨霊。
あの子の苦しみは、兄である私が一番理解出来ているつもりだ。
もしかしたら敦盛の抱えるものは、私の想像を遥かに凌駕するものなのかも知れないが。
「分かっているよ。だから私を浄化するその時は……奏多殿、君が元の世界へ帰る、その時に───」
還内府殿──いや、将臣殿と共に、平家を救うと決めた奏多殿。
そんな君が元の世界へ戻る日が来るという事は、平家が無事に生き残る事の出来る道が見つかった時。
即ち戦の終わりだ。
君が居なくなった世界に未練などない。
怨霊としてこの世に留まり続ける理由が、存在しなくなる。
勝手な事だと分かっている。
でも、最期はやはり君の手で許されたいのだ。